「カーッ!ただの休日だろ!何でこんなに人がいるかね!」
足元も見えないくらい密集して歩く市民を左右に捌きながら人混みでも構わず肩で風を切って歩いていく。浮かれた人々を理解できないと言いたげにひそめた眉と怒り口調は人々から避けられそうなものだが、どういうわけかこの島の子供たちは
准将の制服の隙間に菓子──赤や緑を中心にした色合いとポップな装飾に彩られたそれは到底不機嫌そうな男には不釣り合いなもの──を詰め込んでいく。
本人も決して容認している様子はなく、『やめろガキども!』と一喝しているのだが、それがかえって面白いのか子供たちは甲高い声で悲鳴や笑い声をあげて走り去って行った。
「全く、何度言っても聞かねぇなあいつらは」
「慕われてますね」
「今のがか?」
ポケットに詰め込まれた菓子を鷲掴んでコビーが持参していたカバンに移し替えていく。持って帰っても仕方ないと貧困街に住む子供達にまとめて渡すことにしているのだ。
「これだけ貰えたらわざわざ買う必要はなさそうですね」
「菓子はな」
もう我慢の限界らしい。語尾が荒くなり口数が少なくなりながら少しでも人の少ない裏路地に行き月歩で屋根の上に飛んだ。コビーは慌てて周囲を確認し人の視線が向いていないうちにと後を追った。
「
准しょ、ケホッ」
「そっち風下」
生気の抜けた顔でスモーカー准将からくすねたらしい葉巻を吸う間、コビーは大人引く風上に立って有視界内に不審人物がいないか見渡すしかなかった。
は手元の葉巻を眺め微笑んでおり、いつも側にいるコビーにとってもその顔は貴重だ。
「はぁ…やっぱあの人の揃えてる葉巻は質がいいな」
「いつも気になっていたのですが、それスモーカー准将は容認されているのですか?」
「あの人がはいどうぞってくれるわけねぇだろ。見かけるたびにジャケットからパチって逃げてるんだよ」
「た、楽しそうですね……」
葉巻休憩を終えて深いため息をつく。人混みを歩いて半日、疲労が顔に出ていた。
「いやぁ、この人混みでの勤務は心底嫌になるな」
「クリスマス行事はこの島の収入源ですから、きちんと見廻らないと」
「わかってるが、分かってるからこその愚痴だよ。コビーだって、今日を一緒に過ごす相手がいたんじゃないのか?」
「いえいえっ!僕にはそんな素敵な方、今はおりません!」
「ふーん」
然程興味もなかったのか、それだけ言うと今度こそ休憩を終えてまた町中に降り立った。これだけの高さを飛び降りても人々の悲鳴どころか足音一つ立てないという芸当を平気な顔でやってみせるから時々夢を見ているのではと思ってしまう。
慌てて追いかけて飛び降り二三たたらを踏んだ先で
はその長身でどこか遠くを睨みつけている。
「海賊ではないが、あそこの三人組の男共スリをやってんな」
「え?」
「赤いバンダナつけた男と、その前後二人。既に何件かやってるぞ」
「見えるんですか?」
「見聞色の覇気だ。こっちの存在に気付いてから、あいつら分かりやすく俺たちを警戒してる」
「はぁ……」
そうは言われてもこの人混みではなかなか特定するのは難しい。置いていかれないよう集中して気配を探すが、近くにいる人達の声ばかりが耳に入って肝心な情報が入ってこないまま、コビーの左手を掴む大きな手によって集中力さえも手放してしまった。
「ほら、こっちだ」
「わわっ」
「向こうが気付いてる以上さっさと捕まえねぇと。迷子になったお前を探してる時間はないからな」
「まっ、迷いません!」
「ふーん」
コビーが否定した時にその手はあっさりと離された。怒らせてしまっただろうかと顔を上げたが、右手はサインを出していたので慌てて切り替え左右に分かれる。
「……ぼくは嫌じゃないですよ」
一人になり通路の反対側へ駆けながら横目で見る人々は皆幸せそうだ。
はそこに霹靂しているようだが、実はコビーだって少なからず浮かれている。
「仕事であっても、
さんとクリスマスの街を歩けるんですから」
仕事である以上そんな私情を伝えることはできないが。
コビーが角を曲がった時、今まさにこちらへ逃げ込もうとしている大男を反射的に制圧し、悲鳴を上げ困惑する周囲を宥めていると遠くから
の声が近付いてくる。
「お手柄だなぁコビー」
は残った二人を捕縛して駆けつけた警察官に明け渡していた。
「
准将!ご無事で良かった!」
「おう、今回の功績に免じてさっき名前で呼んだことは許してやろう」
「えっ!?」
「さて、時間だし買い物に行くか。クリスマスにプレゼントもなく菓子だけじゃ寂しいだろ」
「は、はい!」
それとな、コビー。
は立ち止まり一歩後ろにいるコビーに耳打ちをする。
「俺もまぁ嫌じゃないですよ、今日の仕事。お前と二人だったからな」
「え、えぇ!?なん、で……」
あぁ、見聞色の覇気………!
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