冬のキンと冷えた夜空はその暗さから寒さを際立たせるが、この時期のイルミネーションが町中に走る時ばかりはその光を美しく演出する助けとなる。町は幸せそうな人々で溢れていた。
「あの黄色っぽい光は暖かそうだよな。それにああやって肩がぶつかるくらいひっついて歩いて幸せに浸ってるんだから暖かいだろうよ」
ここは空の上。ビルからビルにかけて伝う紐に括りつけられた電球やビルの街灯が暖かな橙色に光るクリスマスマーケットからはおよそ見つけられない暗い空に浮かぶ二人のヒーローは真っ白な息を吐いて──それこそ暗くて見辛くはあるが──下方の人々をぼんやりと見下ろしていた。
「こんな、世の中全て幸せに包まれてますぅ。みたいな空気出されたらそりゃヴィランも暴れたくなるよな」
「縁起でもない事言わないでくださいよ」
「縁起でもない事にしないためにいるんだろ。うぅ寒い」
が首を深く埋めて寒さを凌ごうとするネックウォーマーはファンから送られてきたものだという。ヒーロースーツの邪魔をしないデザインで機能性にも優れていて、直接お礼が言いたいくらいだととたいそう嬉しそうに話していた。
あれは確かに喜ばれるだろうとホークスはゴーグルの中から羨むように見つめた。人のいい男だから贈り物をすれば手放しで喜んでくれる。
ただどうしても物を贈るだけの口実がホークスには見当たらなくて、だから本当に羨ましいのは自然にプレゼントを渡せるファンの方だった。
「なあ、もしサンタさんにお願いするとしたら何て言う?」
「はい?」
「いや、暇だったから雑談でもしようってだけ。怒んなよ」
「寒いだけです」
正確には怒っているのではなくただ驚いたのだ。
の方からホークスへ話しかけることというのは稀なことで、普段は
が暇そうにしている所を偶然を装ったホークスが話しかけているから。顔はいまだマーケットを見下ろしてはいるが確実に自分に向けられた言葉に浮かれ、咄嗟に返事が出なかったせいで沈黙が生まれる。
「俺は、ヒーローのいらない世界をくれって言うよ」
口からこぼれた白い吐息はため息のようにゆっくりと、しかし遠くまでこぼれ黒い空に浮かんだ。ついそれを眺めてしまったのは、
の口からでた言葉が自分の願いと同じだったから。
「もしそれが叶ったら……」
それはなんてすばらしい事だろう、そう思っても口にできなかった。ホークスが返事を悩んでいるうちに
の方から戯言だけれどと笑って否定されてしまったからだ。
「そんなことまずあり得ないもんな」
「……」
「ん、どうした?」
「別に」
「怒ってる?」
「……別に、寒いだけです」
にたりと笑った顔のままホークスを覗き込むのが気にくわなくて、眼下を監視するふりをして顔を背けた。それこそ機嫌が悪いと言ってしまっているようであるのは分かっているが苛立った顔を見られるよりは幾分かマシだ。
にとっては『冗談』と笑えることでもそれはホークスの願いであり目標だから。それをよりにもよって
に笑われ、寒さの一時しのぎの消耗品にされるのが許せなかった。
とはいえいつまでも子供みたく拗ねるわけにもいかないと、肺に冬の冷たい空気をめいっぱい吸い込み頭を冷やすが、その時にはもう同じ上空に
の姿はなくなっていた。
「
さん?」
自分から出た声が裏返りかけた迷子のような情けない声で驚いた。誰も聞いていないのに手の甲で口を塞ぎ、震える喉が発する息を聞かれまいとして目を動かす。
一瞬だけ
の姿を捉えたような気がしてまた眼下のマーケットに目を凝らした。
さっきのは勘違いだったかと思うほどに、もう
の姿が見当たらない。
「……っ」
さっきまで近くにいたって消えるのはいつも一瞬だ。冷える夜空の冷気が肌に張り付いて指先が痛い。探したほうがいいのに、どうせ見つからないと諦めている自分も確かにいる。ただ今は冷たい空気を吸って吐いて、頭がクリアになるのを待った。
「ホークス」
「
さん…」
「どうしたんだよ、そんな顔して」
泣きそうじゃんと頰を赤らめて笑う
はホークスの思いなどお構いなしに楽しそうだ。
「寒かっただけです」
今日何度も使い倒した言い訳には何も言ってこなかったが、その代り冷えたホークスの手を掴んでこの辺りで一等高い建物の屋上まで引っ張っていく。
「これ、貰ってよ」
「何これ」
「冬用のグローブ。静電気も防げるし、暖かいのに薄くて動かしやすいでしょ」
直接お礼が言いたかったんだ。そういって笑いながらネックウォーマーを再度首にかけ直す男は、いつそれに気付いたというのだろう。
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