おさなななじみ
可愛い可愛い俺の友人タソガレがこの城を統べる魔王だという事実に気付いたのは、もうすっかりものの分別がつくようになってからで、それまでの生意気だからとこめかみをグリグリしたり、立ち入り禁止区域の中に引っ張っていったりしていた自分の行いに頭を抱えた。
確かに俺は魔王城の中でも飛びぬけて人間界にいることが多いが、しかし魔王の子の顔を知らずに育ってきた常識のなさには恥じるしかない。今までケガさせずにやってこれて良かった。何かあれば即打ち首もんだ。つーか親父たちも教えてくれれば良かったのに。
『魔王様の命令でな。子供のうちくらい対等な関係の友があった方がいいって』
なんだそれ。とにかく親公認の関係だったみたいで、しかしまあそれも俺がこの事実を知るまでだ。
あんな泣き虫臆病引っ付き虫でもそれが次期魔王と知れば今まで通りとはいかないわけで。
「おお!帰ってたのか」
「お久しぶりです魔王様」
「む、そんな余所余所しくしないでほしい」
無茶言うな。お互いが暇してる時に遊ぶ間柄だった子供の頃と違い、城に常駐している魔王と外勤務の俺では大人になると余計に接点もないため『余所余所しくするな』という命令みたいな文句はそう聞く機会もなかった。
それは、姫が来るまでは、だ。
『魔王軍女部隊の帰還までまだまだ時間がかかる。戻るまでの間、人間界の生活に詳しいお前をアドバイザーとしたい』
との事。面倒ごとは進んで辞退していくスタンスだが、奴らがめちゃくちゃ小さい風呂を発注していたのを見てからは辞退できるほどの理由が見つからなかった。
「わかった…引き受けるよ……」
外で好き勝手やってた俺には城内勤務が憂鬱なのに、他に宛がなかったのか魔王とあくましゅうどうしがやけに喜んでいるのがなんだか怪しくて余計に憂鬱な気持ちになる。
「よ、よし!そうと決まればの激励会をしないとな!」
「いいですねぇ!あーでも皆忙しいですし、魔王様と君の二人で行なっては!?」
「ひぇ!?いやお前は暇だろう!?暇だよな!?」
「もしもーし。ご遠慮します。皆が慌ただしい時期にやる必要ありませんし」
「やっぱり私も参加します!!!」
急に大きい声出すじゃんびっくりした。
二人ともよっぽど追い詰められてるのか息抜きを求めているようなので食事くらいならと承諾した。タソガレ…魔王様は小さい頃と変わらない、背景をきらきらさせるような笑顔を見せるもんだから、ついうっかり
「楽しみにしてるよ」
なんて昔みたいな受け答えをしてしまって、部下からの突然のため口にショックを受けたらしい魔王様が放心しているうちに走って逃げた。申し訳ございませーん。
***
しかしその激励会というのかまーなかなか難しい。魔王様は魔王様ゆえに多忙だし、俺もこのへんちきりんなシルバニア状態のひどい部屋を改修するのに時間と労力を要した。やっとこさ姫を攫い終わったと思えば、あとはお察しの通り。
「クォラ姫!部屋を出るなら一声かけろと何度も言ってるだろ!」
「おーい姫やい。衣替えは済ませたか?足りない服あったら言えよ。は?あったかパン……なんて?」
「おお!?またやられたのかおばけふろしき!あんにゃろ〜死体を放置していくな!」
「あのぉ………」
「なんだよ!……やベ、すいません魔王様」
「いや…我輩こそ…ごめん。話しかけて……」
忙しくてついうっかり口が荒くなった。
そんでまたこの人も昔みたいに手をいじいじするもんだから余計に子供の頃を彷彿させる頭の中で日付を計算するまでもなくわかる。この人の言いたいことは一つだろ。
「俺の歓迎会ですよね。明後日以降なら俺は平気ですよ。姫さんが寝てる時間にやりましょ」
「…!覚えててくれたのか!」
「言ったでしょう。『楽しみにしてる』って」
そう言うとさっきまでのうじうじが嘘のように得意げな顔で笑って鼻を鳴らした。この人は昔から気持ちが顔に出やすくて、なんだかんだ意地悪をしながらも俺は昔から、こいつの笑顔が崩れるのが嫌でつい甘やかしてしまうんだ。勿論今は「忠義」の下に隠しているけれど。
***
「お前の持ってきたこの料理、すごく旨いな!」
「口に合って良かった。人間界では『ロールキャベツ』って言うんです。やっぱり太陽の下で育つ野菜はうまいですよね」
「むぅ…また敬語だ。ここには3人しかいないんだから昔みたいに話してくれないか」
「そんな事したら部下に示しがつかないでしょう」
「なんで!」
何でって。
王様と兵隊が友達のように話すのがおかしいんだって。もう子供同士の友達じゃないんだから。これも何度も言ったはずだし、それこそ子供のように駄々をこねる魔王様を宥めてから話を変えようと姫の近況について報告する。魔王様もあくましゅうどうしも可愛がってるしきっと食いつくだろう。
「あ、そうだ。魔王様。姫さん用にと渡された予算の半分の金額で衣類を揃えましたよ。季節ごとに色々好みもあるだろうからいくつかジャンルの違うものを買いましたが、それでも予算余ってね〜。人間界の方が可愛くて安い服が多いんですよ!」
「……」
「あ?どうしました?」
「……るい」
「は?」
「ずるい!我輩も買い物行きたい!人間界で!買い物!」
「はぁ?魔王様がそんな我儘言わないでくださいよ。ねぇあくましゅうどうし」
「あはは…」
飲み過ぎだ。魔王様の横には空の瓶が並んでるし、明らかに目もとろんとしてる。普段あまり飲む習慣がないのかもしれない。なんかずっと怒ってるし、そりゃあ忙しくてストレスも溜まるよな。俺の歓迎会にかこつけてため込んだストレスを発散したかったのだろう。俺にできる範囲で労ってやりたい。
「ほ、本当に聞いているんだろうな!?」
「え、何を?」
「貴様〜〜!」
「イダダダ」
いつの間に隣に座ってきたのか、魔王様のご機嫌を損ねたくはないのでされるがままでいたのだが、突然力の抜けた様子に何事かと顔を覗くと静かに涙を流しているじゃないか!
「えっ、あっ!?どうしたの……」
「寂じぃ〜前は外で働いてるからと我慢できたが、なんで城にいても一緒にいられないんだぁ〜!」
「ハァ!?」
ナイチャッタ。
突然の事にテンパってる隙に視界の端であくましゅうどうしが部屋を出ようとしているのが見えた。ふざけるなよ。
慌てて捕まえようと手を伸ばしたが、俺の方が逃がさんとばかりに掴まれて動けなくなってる。な、なに……?
「我輩は、と昔みたいに一緒に遊んだりじだいぃ…っ」
「あの、あのなタソガレ、飲み過ぎだ」
「そりゃあな!」
本格的に泣き出したタソガレは俺の肩に顔をうずめてぐりぐりとごねてくる。誰か入ってきたらどうすんだお前の矜持とか威厳とか吹っ飛ぶぞ。
とは思いながらも無下に引っぺがす勇気はない俺は仕方なしにきちんと手入れされた緑色の髪をそっと撫でる。
「んー。この期に及んで何でお前が泣いてるのか分からないんだ。ちゃんと理由を言ってくれよ」
「……」
「タソガレ?」
「それがいい。ずっとそうやって喋ってくれ」
「無茶言うな。俺は姫さんとは違うんだぞ」
「昔はもっと仲良しだった!」
もうこれじゃあ完全に子供だ。昔もこうやって駄々をこねては泣き、自分の思い通りにならなければ泣き、そのたびに俺がゲンコツやこめかみ攻撃をして沈めていたっけなぁ。
「タソガレが仲良くないって思っててもな。俺は今でも大切な友達だと思ってるし、毎日夕ソガレ元気かなーって思ってるんだけど」
「へ?」
「何なら俺、昔以上にお前の事、大好きなんだけどなぁ」
それこそ命張れるくらい。
目を見開いて後ずさろうったってもう遅い。今更逃がすもんか。腕をひっ掴んで反対の手でずうっと髪や顔を撫でながら、いい機会だからと俺の重い愛をぶちまけてやると、「…!」と俺の名前を呼んだが最後突然頭から煙噴き出して気絶した。ピュアか。
「君と話してると、魔王とあーくんが変な顔するんだよ。それが面白いから君と話す」
「お前楽しんでるな」
「もっとあの人を構ってあげなよ」
「誰のせいで忙しいと思ってんだ」
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