何度目の失恋

言わずと知れた京都の夏。室外機の風を直接浴びたような熱風から逃げるように川沿いを歩いていたが、それでもライトで照らされたような眩しさで照り付ける太陽とそれを反射するコンクリートの熱気にやられ、出歩くのは諦め俺の家に避難した。バスケの試合が近い俺を置いて家族は旅行へ行ったのでこの家には誰もいないのだ。途中でみつけた2分の1カットのスイカを更に半分に切って冷蔵庫にしまう。
一緒に買ったアイスは家まで持たない確信があったので帰りながら食べた。北は歩き食べという行為に抵抗があったみたいだけど、向こうからおばあちゃんと手を繫いで歩く子供が美味しそうにアイスを頰張るのを見て考えを改めたらしい。二つに割る棒アイスなんて久々に見たからつい買いたくなっちゃったんだ。食べてくれて良かった。

「外暑かったなあ。冷房効くまでもうちょっと我慢してな」

作り置きしてあった麦茶を氷いっぱいのグラスにいれて、縁側を眺める北に渡す。返ってきたお礼の声はいつもより静か。お互い体育館競技だから太陽の下を歩くというのは思いのほか疲れてしまったのだ。少しでも冷房の働きを助けようと扇風機を回すと北の奴は静かにそっちに寄って行った。

「年々暑さ増してへん?俺らが子供ん時はもっと涼しかった気ぃするわ」
「そんな体感的なこと覚えてへんよ。でもお前、小学校の時夏の体育で鼻血出してたからやっぱり暑かったんちゃうん」
「え、知らんわそれ。よく覚えてるなぁ……」
「ふふ」

笑う北の顔はとても涼し気で、窓から見える光を反射させた目を細めるほどの明るい葉の緑とか、嘘みたいに空色一色で塗りつぶされた晴天とか当たり前のように耳に馴染んでしまった蝉の声とか、そういう夏の景色からひとりだけー枚膜を張って少し遠くにいるように見えてしまうくらいに、目を引く。

「ん?どうしたん」
「ううん。俺んち何もないから退屈やろなあって」
「別に。涼しいところで話せればそれで十分やろ」
「せやな」

そうは言っても麦茶だけ出すというのも寂しいし、目についた煎餅とかチョコがけクッキーを適当に皿にあける。北は豆付きのせんべいを見て、おって言った。

「前に北んとこのおばあちゃんに貰ってから我が家にブーム来てんの、これ」
「ははっ」

涼し気な外見に反してふわりと目を細めながら笑う顔が好きだ。しばらく中身のない話で盛り上がって、そういえばと思い出して冷蔵庫で冷やされているスイカを切ろうと台所へ立った時、北は「そういえばな」と軽く聞き流してはいけないような静かな声で話し出した。

「ばあちゃんがな」
「おん」
「今から俺の結婚式楽しみにしてんねん」
「そうか」

いきなりなんやねん、とか言ってやりたかった。あまりに突然そんな事言うもんだからそのショックがでかすぎて、口から絞り出せたのはたった三文字。そんなんあえて言わなくてもさ。

「そんだけかい」
「だって、そら、お婆ちゃんの夢なんやろ?なら叶えなあかんやん」
「それだけ?」

他になんて言ってほしいんだよ。
言いたい言葉と言える言葉は違うのに。ああスイカ、どんどん細かくなってくぞ。
また北の顔見て笑ってみせる準備ができるまでスイカに専念するふりをしないと。


Back