ペプシ味
同じクラスにいるは類まれなるお人好しで、今だって友人に貸してくれと頼まれたノートが授業前に帰ってこなかったばかりに宿題忘れのレッテルを貼られている。
「やったんですけど家に置いてきちゃって〜」
「忘れたやつは皆そう言うんだ」
「てへ」
バスケ推薦で来たは典型的理系らしく、国語や英語はさっぱりだが数学と物理だけはよくできた。生物もからっきしだったっけ。
「すまん!俺がノート返し忘れたせいで!!」
「全くだよ。詫びとしてコーラ買ってこい」
「今すぐに!」
わざと怒った顔をしているがそれは相手に余計な気を遣わせないためだろう。本当は詫びなんて欲してないし気にしてもいないのだ。
「ついでに天童もなんか頼む?今ならおごってくれるぜ」
「えっ!?」
「……じゃあカルピス〜」
「えぇっ!?」
こうやって一人クラスメイトの会話を外野から見ていた俺を輪に加えるくらい空気が読める男なのだ。は。
「天童はさ」
「へっ?」
「クラスメイトの事どんくらいに思ってる?」
「どういう事?」
「あー悪い。突拍子なかったな。ほら、お互スポーツ推薦でここ来てるだろ?部活以外の時間をどう思ってるのか知りたくて」
「あー」
の話を聞いているようで、その中身は全然頭に入ってこない。俺にはから話しかけられたという事実を受け入れるので精一杯なのだ。
「早く部活の時間にならないかなぁって思ってる」
「ふは、やっぱりな」
笑った。ベタな表現だけど、自分の鼓動が跳ねるのがわかった。俺はの目元をくしゃりとさせて笑う顔が好きだ。ずっと見てたいし、わりとずっと見てる。
「俺はクラスメイトも好きだよ」
「へぇ」
「部活と違ってバラバラに集められてるからさ、みんなキャラが違くて面白いよな」
「まぁそれはあるかもね」
「天童もその一人だぜ」
「えっ?」
ニッと笑ったが口を開く前にクラスメイトが慌ただしく教室に戻ってきた。
「おーい!コーラ売り切れてたからペプシにしたんだけど!」
「嘘〜!?コーラとペプシは別物やんけ!」
「でも手ぶらで帰ってきたらそれはそれで怒るだろ?」
「まぁ、そうだな」
談笑するクラスメイトを眺める最初のスタイルに戻ったが、今の俺には丁度良かった。
『天童もその一人だぜ』
「あいつ、俺に関心あったの?」
自分だけかもしれないが、クラスメイトの事などあまり関心がないからいまいち覚えていないやつもいる。だからこそにとって自分もそういう存在だと思っていたのだ。積極的に声かけたこともないし。お互い部活のためにこの学校にいるのだし。
「天童」
「へ?」
「ほら、山中がお前の分のカルピス買ってきてくれたぜ〜」
「ひでぇよ天童だけ棚ぼたじゃん!」
「ジュース一本じゃ罰にならないからな」
早く渡せよ、と言われたヤマナカが俺にカルピスを渡してきた。「ありがと」って簡単なお礼言って、へぇ、ヤマナカって結構若利クンと顔似てるのね。表情はこちらのがずっと豊かだけど。
「そうだ。今日は体育館が保守点検で使えないから放課後どっか行こうぜ」
「おぉ!から声かけてもらえるなんて嬉しいなぁ!」
「オレラウワンがいい。俺の好きな漫画とコラボしてるからグッズ回収付き合って」
「おぉいいぜ。天童も来るか?」
はまた俺にも話を振ってくれた。クラスメイト達はどう思ってんだろう。周囲の様子を見ながら頭の中では今週の予定表を思い出す。あぁそうだ、学校の体育館が使えないから、近くの大学で練習試合だ。
「俺隣駅の大学で練習試合、ごめん」
向こうだって特典のために人数欲しさで誘ったんだろうから俺が謝ることなんてないのに、が残念そうな顔を見せるからつい謝ってしまったんだ。
「そっかー……また機会があったらいいんだけど」
バレー部は忙しいから無理そうかな、と言いながらはペットボトルを揺らす。その中身は既に半分ほど空になってるんだからなんだかんだペプシだって飲むんじゃん。
「う〜ん俺も遊びに行ってみたいヨ。青春って感じじゃん」
本当はどっちでもいい。クラスメイトとの遊びって何したらいいかわかんないし、バレーやってる方が気楽だ。だけど、の私服ってどんなのなんだろうとか、学校のこと以外で喋ってみたいなとか、そういう気持ちは、多少はある。
「はは、気を使わなくていいよ」
「……へ?」
見透かされたの?どこまで?
***
との関係はきっとこのままの状態が続くんだろうなぁと思ってた。俺が一方的に見つめて癒やされるような、そんな間柄のまま。でもそれって白鳥沢が春高も優勝して全国行くの前提の話だったから、まさかそんな当たり前の予想が外れるなんて思いもしなかった。
「おつかれ。クソ惜しかったな」
「やー、そうね」
「テレビで見たけど迫力あるな。白鳥沢も烏野も別次元過ぎたわ」
「わりと気を遣って話しかけてこない人も多いんだけど」
「なんで?最後の試合にフルで出られたんだから誉じゃん」
「ンねー」
気のない返事しかしないから気を悪くさせたかな。そう思ってはいても今は取り繕う気が起きない。なんていうんだろう、これが燃え尽き症候群ってやつかな。机にへばりついて前の椅子に座り話しかけてくるに相槌を打つだけ。
「……何してんの?」
「んー?まぁ気にせず」
「いや気になるよこれは。励まし?」
「んなわけ。慰労品」
机に並べられた俺の好物。なんかビニール袋持ってるなぁと思ったら中身を一つずつ並べられて、机はいっぱいに。
「しばらくしたらまたバレーに関わりたくなるよ。それまでゆっくりすればいい」
「俺落ち込んでるように見える?」
「落ち込んでんの?」
「だり〜〜〜」
「あはは」
は俺の八つ当たりにみたいな悪口なんて聞こえてないのかにこにこした顔のまま机に菓子を並べ続けてる。なんで楽しそうなんだよ。いたずらっ子みたいな顔が新鮮で気付かれないように盗み見る。
「今言うのは不謹慎かもしれないけどさ」
「え、なにが?」
は菓子から手を離していつの間にか俺を覗いてた。目があったのに、つい逸らせない。
「もしかしたら俺と遊ぶ時間作ってもらえるんじゃないかって嬉しかったりしてる」
今まで見た中で一番子供っぽい顔。目を細くしてニィと笑う顔があまりに新鮮で面白くて、笑わせに来てるわけじゃないはずなのにつられて笑っちゃった。モヤモヤした気持ちもなんかちょっと無くなった気がするしさ!
***
引退したってバレー部には顔を出すし試合があれば当然見に行く。卒業するまではこうやってバレーや後輩達と付き合っていくんだろうけど、有言実行とでもいうのかをはじめとしたクラスメイト達との付き合いはかなり増えた。の鶴の一声で夏祭りや千葉の遊園地に遊びに行くことだってあったし、と二人で近くのショッピングモールに買い物にも何回か行った。
いつもは楽しそうだし、俺も休みの日は暇だったから断る理由もなくって、そんなふうに過ごしてるから学校でも二人で喋る機会が増えていくのは普通でしょ?
「お待たせ!購買混んでたわぁ」
「だからコンビニで買ってくればいいのに」
「いやぁ、卒業したら購買のパンともお別れだぞ?それに部活やってた時はなかなか買えなかったからついさ」
「てこれからどんどん太りそうだよネ」
「いやいや!さすがに運動は続けるって!」
待たせたお詫びにって渡されたカルピスがなんだかすごく懐かしくて、そういえばあのときからだよねぇ話をするようになったのって。
「やっぱ屋上いいなぁ!今日は貸し切りじゃん!」
「一二年は校外学習だし三年も自由登校だからね」
「うん。絶好の日だな」
「なにが〜?」
はううん、と首を振ってそういえばと話を続けた。
「天童って、相手の動きを予測するのが得意なんだろ?」
「巷ではゲスブロックと呼ばれているらしい」
「ははっ、何だそれ」
最近知ったことなんだけど、は本気で可笑しい時は口を隠して笑う。もちろん大口開けて笑ってるのだって楽しい時なんだろうが、話す機会が増えて知った一面。こういうのってなんだろ、たまらなく嬉しくなる。もっと増えないかな、俺だけ知ってるようなこと。
「じゃあさ、ヤバって思ったら引っ叩くなり対応できるよな」
「なにを?」
「俺も、お前のこと好きなんだよ」
の声が少しずつ、近くなる
ペプシ味
いっそ頭掴んでくれれば逃げられないって言えたのに。
バレーの動きしか読めないって言う?
というか今『俺も』って言ってなかった?
両思いなら別に言い訳しなくていいのか。
というか、いつから見透かされたの?
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