between
<あー……ハイ。昨日の夕方には着いてたんだけど、つい仲間内で盛り上がっちゃって。連絡遅くなってすまない。昨日は到着連絡のチャットしか送れなかったから電話でもと思ったんだけど、勤務中か?メッセージだけでも残し──>
「もしもしブラッドリー!?」
『びっくりした……今大丈夫なのか?』
「あぁ、こっちも飲んでただけだから!」
周りの話し声が大きいせいでブラッドリーの「そうか」という声がいやに小さく聞こえたは部屋を出て人気の少ない廊下へ出た。
「それで、初日の訓練はどうだった?」
『……』
「ブラッドリー?」
『あいつがいた。教官でだ』
「"マーベリック"大佐だな」
『あぁ……昨日の時点でもしかしたらとは薄々思っていたんだ。ハングマンやフェニックスもいるし、あの面子に今から教えることがあるとしたらそれは相当の任務だろうし』
「そうだな、"マーベリック"の名前はトップガンでない人達だって知ってるくらいだ」
『あぁ……』
「やりづらい?」
『別に。気にしなければなんてこと無い』
「はは、『気にしないように気を付ける』んじゃないか?」
『……』
「ごめんって。とにかくさ、話す機会が無理矢理与えられてラッキー!位に思っておけよ」
『お前はいつもそうだな』
「俺の人生本当にラッキーだけでできてるんだ」
『ご謙遜を』
「ブラッドリー」
『ん?』
「どんな結果になっても俺はお前の味方だから」
『クサいセリフだな』
「他にいい言い方が見つからなかったんだ」
消灯時間も近付いていた。どちらかともなく電話を切って夜を明かす準備をする。きっとしばらく連絡は取れないだろうなぁ。確信じみた予感を拭うように部屋に戻って酒を浴びた。
***
勤務中も腕に嵌めた端末を気にして気が気でない。別に毎日連絡が取りたい訳でも、取るような間柄でもない。ただ無事でいてくれればいいと、本当にそれだけだった。どうか、どうか、訃報の連絡など届きませんようにと。
『?』
「フーー……どうした?ブラッドリー」
『なんだよその深いため息は』
「お前の声に安心しただけだよ」
『……今まずかったか?』
「全然。ただこんな時間に珍しいな」
「あぁ、作戦前に少し時間を与えられたんだ」
うまく飲み込めなかった唾液が間抜けな音を立ててなんとか喉を下っていった。「そうか」という声に動揺が見えていたのだろう。電話越しのブラッドリーはその雰囲気をかき消すよう話し出す。連絡できず申し訳なかったとの謝罪に始まって厳しくもそれなりに楽しくやっていたこと。学ぶ事が多い時間だったこと。5人しか選ばれない作戦に選ばれたこと。"マーベリック"と、和解したこと。
静かにうん、と相槌を打っていたもマーベリックとの和解と聞いて少し声が浮ついた。
「そっか、良かった。良かったなぁ」
『あぁ。マーベリックがさ』
「うん」
『こういう時の電話をかける相手が俺にいること、喜んでたよ』
「……お前ちゃんと説明したのか?」
『家族みたいな奴って言っておいた』
「絶対勘違いされてる……」
『今までの仕返しだ。悩ましてやる』
「大事な作戦前に何してんだよ……っ」
『泣いてるのか?』
「バカ、笑ってんだよ」
こういう時、家族ならなんて言うのが正解なんだろう。お互いもう身寄りがない同士、最期になるかもしれない電話でなんて声をかけるのが正解なのかわからなかった。関係で言えばあくまで他人。どこまで介入していいのか、どこまで本音を言っていいのか、わからなかった。
「帰ってきたらさ」
『……』
「お前が好きなもんだけ並べてお疲れ会でもやろうよ」
『が作るのか?』
「お望みとあらば。だからさ、食べたいもん決まったらまた電話くれよ。本当に、いつでもいいから」
『───わかった』
なるべく暗くしたくなかった。祖国のための任務だというのは重々承知しているから、自分個人の「死なないで」というわがままに似た願いを口にはできなかった。
だから、電話よりも先に海軍から一通の手紙が届いた時は本当に肝が冷えた。冷たい指先で何度も失敗しながらなんとか開封した手紙の中身が招待状だと知ってからは、震えるのは指ではなく肩だった。
「はぁ……無事ならそれで何よりだよ」
受け取った以上行かねばなるまい。気乗りしないながらも会場までの航空券を取得した。
***
会場は想像と違い随分フランクな、というかもうバーそのものだった。ビーチの側にあるからか音楽は大音量で流れ駐車場にも車が多い。招待状からとれる雰囲気とは大違いで襟付きシャツで着た事をすぐ後悔しジャケットだけでもと脱ぎ捨て車に放る。
「来てくれたんだな」
「……、ブラッドリー!」
「ゔッ」
この目で無事を確かめた時の安心感たるや。堪えきれずつい回した腕に力が入りすぎた。むせるブラッドリーに無事でいたことの感謝を伝えようとしたところで店の中から『ルースター!』と彼を呼ぶ声が聞こえた。
「"ルースター"ってお前だろ?」
「あぁ」
軽く首を傾けて行ってやるよう促すと、若干不服そうに眉を潜めたがそれでも声の方へ向かっていった。話したいことは山ほどあるが、まぁ帰ってからでもできるし今は同僚を優先したいだろう。
中の賑やかな雰囲気にアウェイ感を受け海岸を歩いていると今度はまた別の知り合いに遭遇した。"ペイバック"は物珍しげな顔でを見て敬礼する。
「手を降ろしてくれよ」
「いやぁ、まさかこんな所で会うと思わなくて」
「俺もこんな身内感溢れる場だと知っていたら来なかったよ」
「え?だってこれは───」
「ヘイペイバック、そいつはお前の招待客か?」
「違う!この人は中──痛ェ!?」
「始めまして。・です」
「ハングマンだ」
「あぁ、君が」
「俺を知ってた?」
「この時代に敵機を撃ち落とすのはそうそう無いからね。例え旧型機だろうと」
敬意をこめて手を差出すが嫌味と思われているのかすぐには返してもらえなかった。数秒の間が空いたあとに握手を交わすのと同時に「じゃあフェニックスの?」と問われる。招待客か怪しんでるのだろうかと面倒になり胸ポケットに入れていた封筒を見せると、一瞬固まった後またニヤニヤと笑い今度は見定めるように一歩下がり見渡してくる辺り、そりゃブラッドリーが嫌がるわけだと、苦笑いを浮かべる。
「何してるの」
どちらかが"フェニックス"と呼んだ彼女は凛とした目をに向け僅かに笑った。
「貴方が・ね」
「始めまして」
「少し話せる?色々聞きたいんだけど」
「勿論」
「貴方達もどう?」
二人が首を横に振るのを予測していたのか流れるようにの背中を押し壁際まで移動する。途中手に取った瓶ビールで乾杯しているときも、今も、フェニックスはさり気なくを"観察"していることに気付いていた。
「えっと、やっぱり俺の服フォーマル過ぎたかな」
「あーごめんなさい、そういうつもりじゃないの」
額に手を当てたフェニックスはしばらく言葉を探すように少し俯いていたが、すぐ顔を上げ目を見て話しだした。
「前にルースターが」
「うん」
「こっちの話も上の空にスマホの画面を睨みつけてたことがあったの」
「へぇ」
賑やかな会場では少し声が通りにくく、は身長差を埋めるためにも少しだけを屈んで話を聞かねばならなかった。
「その時ディスプレイにあったのが貴方の名前だったから気になって」
「俺の?何か怒らせることしたかな」
「今まさにその顔でこっちを見てる」
「えっ」
フェニックスの言うとおり達を見るルースターの目はなんだか険しくて、ミッチェル大佐の話をしている時を思い出した。
「俺、怒らせることしたかな……」
「それ本気で言ってるの?」
「えっ?」
言葉の意味を聞く前に"ルースター"ことブラッドリーからこちらへやってきた。
「話は済んだか?」
「これから盛り上がるところだったのに。ね?」
「そうなのか」
「いや、衝撃の事実を聞いていた。俺がお前を怒らせていた事に今まで気付かず……」
「は?……フェニックス」
「嘘は言ってない」
これが事実ならにはかなりショックだった。同情か友愛か、はブラッドリーが常に笑っていられるよう尽くしていたと自負している。だからその自分が彼を不幸にしているなら、それは許しがたいことだ。
「すまないブラッドリー……なんか俺のせいで苛立たせていたらしく」
「いや、違う、勘違いで──」
「おや」
タイミング悪いな。そう言いたげな顔をするとルースターの視線の先には嬉しそうな顔で笑う"マーヴェリック"の姿があった。間が悪い。嫌な予感を察知したがその場を離れるより先に"マーヴェリック"が口を開いた。
「随分久しいな、中佐」
そこからはもう阿鼻叫喚。
中佐ってどういうことですか、マーヴとお前が知り合いなんて聞いてないぞ、あいつ同業者だったのかなんて声が飛び交ってビールを片手にゆったり?冗談じゃない。は額に指を起き自律神経を落ち着かせようとトントンと叩いた。
「同業者と言っても俺は衛生兵で、中佐にまでなったのは俺の担当した患者がたまたま生命力の強い方ばかりでただのラッキー昇進!患者様のおこぼれ!ミッチェル大佐についてはまぁ……あえて言う必要もないかという気持ちと、まさか向こうが覚えてるとは思わなくて」
「覚えてるさ!前にブラッドリーから『俺はと仲良くやってるから構わないでくれ』と言われてね」
その言葉を盗み聞きしていたハングマンがへぇとからかうように相槌を打ったの聞いて咄嗟に『友人としてだ』と補足をした。そう、友人。
「恋人なわけないだろう?親しい友人だよ」
生涯失いたくない友人、とまで言ったら重すぎるし黙っていよう。言葉に出てしまう前にビールと一緒に飲み込んで、マーヴェリックに飲もうと引きづられるは助けを求めるも不機嫌なブラッドリーからのフォローはなく、そのまましこたま飲まされた。
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「ブラッドリィー!結婚するなら俺よりお前のこと大切にする女にしろよォ!」
「生涯独身にさせる気か」
酒の力は恐ろしい。カメラを回すボブはの横を陣取るルースターやその周辺をビデオに収めながらそう思った。
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