大きさ比べ

ドアの前の水晶が人の熱を感知し、木製のドアを横へスライドさせる。今どきこの古風なタイプの自動ドアを採用している店も少ないと告げられた時はでもこっちのが安いからと笑い飛ばしたものだが、今はもう、金を貯める必要もなくなったし、この機会に新調してもいいかもしれない。

「いらっしゃいませ……おっと」

読んでいた新聞から目を離し、今開いたであろうドアの方へ目を向ける。そこにいたのは今しがた新聞で見たばかりの顔。うちの常連さん。

「レイン──様」
「貴様、偽物か」
「いや、本物だよ。本物の店長だよ。ただ新聞を見てさ、というか順番が逆か」

見慣れた不機嫌そうな顔でこちらを見上げるレインに向けて手を伸ばす。受け入れはしないが払う素振りを見せないのをいい事にいつも通り頭を───いや、肩に手を置く。

「……。神覚者、おめでとうございます」
「………」
「それで今日は──」
「今まで通りにしろ」
「は?」
「気味の悪い態度には腹が立つ。二度とするな」
「……ふは、はいはい」

眉間のシワが深くなるのは怒ったときの顔。バイトの娘はこいつの事をクールだなんだと言っていたが、俺からしたらどこ見てんの、だ。

「それで?今日は何の用だ?」
「用がなきゃいけないか」
「いけないだろう。用もなくこんな不便な立地のペットショップに来るんじゃないよ。忙しい身で」
「………餌を買いに来た」
「よし、いつも通りの配合でいいか?」
「あぁ」
「わかった、待ってな」

レインの方から『今まで通りに』と言ってきたんだ。だから俺が昔からやってるように頭を撫でて裏へ在庫を取りに行ったのに、中にいた新人の子は頬を赤らめて目を見開いていた。

「……店長」
「はい」
「あそこにいるの、レレレ……」
「レイン・エイムズ」
「〜〜〜ッ!」
「イダダ!無言で店長に肩パンするのやめなさい!」
「店長、サイン貰ってきてください」
「自分で行きなさーい。あいつはプライベートで来てるんだから俺はそんな事したくない」
「意地悪!」

意地悪で結構、いいから右の冷蔵庫に入ってる野菜持ってきて。興奮気味のバイトちゃんをそう言い宥めている所にレインがやってきた。ここ一応バックルームなんだけど。

「………」
「レイン?」
「………」
「どうしたレイン」
「………」
「無言が長い……!」

ガチ怒りだ。杖まで握っている。待たせすぎただろうか。確実にバイトちゃんのせいなんだけど。バイトの子を売って保身を図ろうとしたのがバレたのか、バイトの子は勢いよく姿勢を正し、『誤解です!』と言って立ち去った。何が?

さん……時間がねぇんだ早くしろ」
「はい!ごめん待たせたな!」
「………」
「お、そうだ。一昨日新しい紅茶を仕入れたんだ。待ってる間に飲まないか?」
「……さんの私物だろ。客にだしていいのか」
「客には出さねぇよ。レインは別〜」
「なら飲む」

そこからは終始ムッとしたままで、俺としては大事な……。……大事な顧客を失うのではという不安があったが、去り際に『近いうちにまた来る』と言っていたので大丈夫だろう。エグいほど凄まれたが。


それから、本当にレインは来た。

「ウサ太郎の定期検診だ」
「もっとブラッシングに力を入れようと」
「冷えてきたからいいベッドが必要だ」
「最近ウサミがご飯を食べない」

近いうちにまた、とは言ったがこんなに?こんな頻度で?俺としては、素直に嬉しい。バイトの奴らに『店長最近若々しいですね』と言われたくらいだ。やかましい俺は元々わりと若い。

「とはいえよ」
「は?」
「いや、お前学生であると同時に神覚者だろ。クソ忙しいだろうが」
「なんてことはない」
「わざわざこんな遠くのペットショップ来なくとも、学校の近くに何店もあるじゃねぇか」
「ここでないといけない」
「だからといってここはあまりにも不便な立地だろう」
「しつこい──」
「隈、気付いてる?」

目の下に触れるのはさすがに無遠慮過ぎただろうか。あの冷静沈着なレインがわずかに目を見開き体を強張らせ、じわりと耳を赤らめた。隈を指摘するのはプロとしての彼のプライドを傷つけたのかもしれない。

「学校から一駅分離れたところにペットショップがあったの知ってるか?」
「悪質なブリーダーだと聞いたことがある」
「あぁ。だから潰して、俺が買い取ったんだけどさ」
「へぇ」
「ものすごい金と時間がかかったのよ。まぁここより都会だから、数年すれば巻き返すだろうとは思ってるけど」
「そうか」
「そこを買い取った一番の理由がさ」
「あぁ」
「レインが通いやすいようにって言ったら、やっぱ引かれるよな?」
「………」

レインは黙った。ずっと黙ってる。俺が声をかけようが手を振ろうが見つめていようが黙ったままで、挙げ句の果にそのまま箒で飛んで行ってしまった。ドンッッッ引きじゃねぇか。




傷心中の俺。バイトちゃんにケツ蹴られながらなんとか開店に漕ぎつけると、店前にバカでかい開店祝いの花が届いていた。デカすぎるぞ、レイン………

 Back