カフェにて密やかな
「はぁ……」
「おや、お疲れかな」
「パスティス長官」
本部のカフェは昼休憩の直後だからか人は少ない。傷心中のはこれ幸いとカウンターでブラックコーヒーに向かいため息を溢していたのだが、そこに突然5長官の一人、パスティスが現れたのだ。柄にもなく慌ててコーヒーカップをがチャリと揺らす。
「今は休憩で来てるんだ。そう畏まらなくともいいさ」
「は、はぁ」
咄嗟にあげた敬礼を下ろす。隣いいかなと言われ首を縦に振ったものの、正直今は一人でいたかった。さっさとカップを空にして出よう。そう思うを留めるようにパスティスはいつものゆったりとした優雅な──貴族なので当然ともいえる──口調で話しかける。
「何か悩みごとでもあるのかい?」
息をつくような話し方に澄んだ銀色の流し目を前に誤魔化しなどは通用しそうもなく、それに自分の性質を隠す気もなかったため、コーヒーカップの中身をぐい、と飲みきりは口を開く。
「失恋したんですよ」
「ほう?お相手は、と聞くのは無粋かな?」
“人の不幸は蜜の味”というやつだろうか。パスティスは興味深げに相槌を打つ。
「そうですね……。高い地位にいらっしゃるのに傲らず、自ら国のために尽くされるとても綺麗な方」
パスティスは僅かに目を見開く。
「仕事にも真面目で熱心で、かといって堅苦しすぎず、あの人の力強くも美しい声は誰だって心に響くと思います」
どうやら自分の事ではないらしい。パスティスはまだ熱い紅茶を一口含んだ。
「……どうにも、私にはモーヴ長官しか思い付かないな」
「軽蔑しました?」
「いいや?私がそんな視野の狭い人間に思われていたとは心外だねぇ。同性愛者は貴族の中に何人も知ってるよ」
驚きはしたがね、ともう一口紅茶を飲むパスティスにはんー、と否定をする。
「別に、同性愛者というわけでもないんです。ただ、好きになったモーヴさんが女性であっただけで」
「ふぅん?」
「これが敬愛なのか愛念なのかも定かではないですけど。まぁどのみち、あの人にも尊敬する人がいて、私など到底及ばないのです」
空になった白いコーヒーカップには、コーヒーが入っていたことを示す茶色い線と、移った口紅。カップがひどく汚れて見えるのは心が淀んでいるからだろうか。
もう一度ため息をつこうとするに、店員から差し出された入れたばかりの綺麗な紅茶。透き通るような黄色い紅茶と、その横に添えられる艶やかな赤いチョコレート。こんな立派なものは頼んで覚えはない。
「その紅茶は我がスイツ区の茶葉を使った、心落ち着かせる紅茶でね。君への励ましの一品だ」
「わざわざありがとうございます。では、このチョコレートは?」
「ふむ……挑戦状、とでも言おうかね」
「え?」
「今日は話ができて楽しかったよ。ではまた」
“また”。これは再び会う機会を取り付けられたということだろか。窓からの光でゆらりと輝く金色の髪が、ふと紅茶の色と重なった。
カフェにて密やかな
「またまた、すごい方に目をつけられましたね」
長官が出ていっても敬礼の姿勢で動かない私に店員さんがこそっと声をかける。
「まぁ、5長官なんて何考えてるか分かりませんから」
紅茶の横に添えられた真っ赤な四角いチョコレートは、甘いなかにカルダモンの味がした。
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