久々知兵助
君と一緒にいても先が見えない。
最初に口にしたのはどちらだろう。口にしたのはどちらだろうと、きっと互いに思っていたことなのかもしれない。
「さん」
「なぁに、久々知君」
改めて考えると、本当に恋仲だったのかも怪しい。お互い、名字で呼んでいるなんて。
「この雪が全て溶けるのは、あとどれくらいだろう」
「さぁ……でも、まだ火鉢は片付けられないね」
「あぁ、学園長先生の庵には火鉢が三つも置かれていたよ」
雪が溶けたら終わりにしよう。あのときの約束を思い出してうまく笑えている自信がない。
他愛もない会話に見せるその笑顔は今でも変わらず綺麗だと思う。口にしたことは、あっただろうか。
もっと中に入ればいいのに、縁側に腰掛け庭の雪に目をやる後ろ姿を目に焼き付ける。
白銀の中から抜き取ったように黒いあの人の髪が何故かまぶしい。いつも白いと思っていた肌も雪の前ではやはり暖かい色をして見える。
「久々知君」
「なんだいさん」
名前を呼ばれるたびに口は弧を描き心が暖かく感じるのが、自分だけじゃなければいいのに。
「今から少し、歩きに行けないかな」
「ずいぶん急だね?でも、うん、行こうか」
口元はふんわりと笑っているのに困ったように眉を下げているのは何故だろう。
「じゃあ、支度をして校門前で待ってるね」
困った顔の理由は、聞けなかった。
***
「お待たせ」
「ううん、大丈夫」
少し遅れていくと相手はもう息を白く吐いて待っていた。寒い、小さく身震いした。
二人で歩く。
少しずつ、胸が苦しくなってきた。
どうしよう、情けなくも泣きそうだ。
「大丈夫?久々知君」
「あぁ……ごめん、ごめんよ、さん」
寒い、火鉢が欠かせないほどに。
でも、雪が保っていられるほどじゃあない。
君は気付いてたんだね。
これが最後になると。
もしかしたら先に別れを告げたのは俺だったのかもしれない。
じゃなきゃこんなに胸は痛まないのだから。
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