立花仙蔵
「失礼します、潮江いる?」
「お前は、か」
「あぁ。立花、潮江がどこにいるか知らないか?」
「あいつなら鍛練にでも行ったのだろう。渡し物か?」
「おぉ。安藤先生に頼まれてな。資料を潮江に渡してくれって言われて」
「ふむ、それなら私が預かろう」
同室なのだから、文机にでも置いておけばいい。それくらいの軽い気持ちで言ったのだが、彼は首を横に振った。
「いや、俺が頼まれたのだから自分でやるよ、ありがとう。失礼しました」
軽く頭を下げ、律儀に両手を揃えて部屋の引き戸を閉めたのだ。
チッという私の舌打ちは声に漏れていないだろうか。
こいつはいつもそうだ。いくら授業を同じに受けていないとはいえ、共に六年間を忍術学園で過ごした仲なのだ。それなのに昔から、何も変わらずに他人でいようとしている。
***
「作法委員として町へ出た帰り、大きな荷物を抱えたの同室とすれ違ったぞ。桜色の小袖がよく似合う娘と並んで歩いていた」
あぁ、元同室だったな。意地悪な物言いなのは自覚しているがどうしても止められなかった。もちろんも気付いているだろう。丸い目を向ける。
「……あの、立花、それ俺に言う必要ある?」
「いや、随分と何でもないような顔をしているから気になってな」
「まぁ悲しくないわけじゃないよ。ただまぁ、さほど悲しくはないけど」
他人行儀なのは、何も私に対してだけではない。共に食住を共にした同質のリタイア、退学に対してもこの冷淡さだ。自分でも不思議に思うくらいに腹立たしい。
「お前は、『知り合い』を保つのが上手だな」
「……すごい、よく気付いたな立花っ」
動揺は、表情の裏に隠す。
黙って答えを待っていれば彼女曰く
「ここを卒業してこの殻を破れば、俺たちは武器を持たずに語れないんだから」
と。そんなの関係ないことだ、とは、言えなかった。
「どれだけ親睦を深めようと、どれだけ絆を確かめあおうと、そんなのここにいる僅かな間だけだろう」
そんなの分かりきったことだと悪態をついて、先ほどまで浮かべていた笑みも今は消え失せ、僅かに殺気すら立てていたかもしれない。
そんな私を見て眉を下げた───というのも私の希望的観測かもしれないが───彼は小さく頭を下げ部屋を後にした。
チッ、と。舌打ちがよく響く。
彼は私の思いなど全く無視をして、卒業と同時に全てを捨てようとしているのか。
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