「好きだ」
「無理」
「なんでだよ」
「こういう場面でも変装するような弱い男は勘弁だよ」
これが全ての始まりだった。
「おほー、不敗神話破れたり」
「女を口説けば百発百中だった三郎がねぇ」
「うるさいぞお前ら。少しは雷蔵と兵助を見習って私を励ませ」
「なに言ってんだ三郎。雷蔵は興味ないからって委員会行ったし兵助は豆腐しか見てないぞ」
「話聞いてやってるだけありがたく思えよな」
……なんだか私は友人に恵まれていないような気がしてきた。
話を聞いてやってる、など言っていたあの二人もヘムヘムがランチタイムを告げる鐘を鳴らした途端すたこらさっさと去っていった。
私は友人に恵まれていない気がしてきた。
***
「おやおやさん」
「……鉢屋、何してるの」
「それはこっちの台詞だよ」
食堂を出てさて何して過ごそうかと廊下を歩けば、校庭の隅で屈んでいる彼女を見つけたので声をかけたのだがどうも歓迎されていないようだ。
「ご覧の通り、生物委員から逃げ出した兎を捕まえたの」
彼女の細い腕の中で小さく震えている真っ白な兎。
「やはり、私は君が好きだな」
「はぁ。折角だから聞くけど、私のどこが好きなの?」
まるで自惚れた女のような質問なのに、きっと彼女はただの疑問を口にしただけなのだろう。
「色々あるけれど、一番は優しいところかな。気配りができるし分け隔てなく優しくできるところ」
今だって生物委員でもないのに兎の保護をしているだろうとまで告げると先程まで前を歩いていた彼女は足を止め意外そうな顔で私を見た。
「私の優しさは君の言う優しさとはちょっと違う。愛の見返りを求める利己的な博愛主義だから」
「それならこんなに好きだと言っている私を拒む理由ないじゃないか」
「君のは違うでしょ」
この時、初めて彼女と目があった気がする。
「違、うって……何が」
「君が私に向けるそれは愛じゃない。ただの仲間意識だよ」
貴方は常に相手と一定の距離を保とうとするでしょ、と。まるで殴られたような衝撃だ。
「君は私と同じくらいに臆病で、私と同じくらいに人と距離をとるのが上手だから。愛するなんて無理な話だよ。距離が遠すぎる」
腕の中の兎を愛しそうに撫でる指も、きっと愛で満たされたいと願っている。その手を掴んでしまえば彼女はそれを愛だと信じ込むだろうか。
「君は今仮面の下でどんな顔をしているんだろうね」
それが作られた笑顔だと感じられるのは、私達が「仲間」だからなのだろうか。
こちらも必死に笑顔を作り笑いかけるほかなかった。
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