中在家長次
「そろそろ行かなきゃ」
私は今上手く笑えているだろうか。自信ないなぁ。図書委員の後輩たちから貰った大切な本を握りしめきゅっと笑って見せた。
「先輩、お元気で」
そう言って眉を下げたのは雷蔵かな。うん、三郎はこんな優しい顔はしないよね。横で空気を読んで俯いているのが三郎だ。
「なんで図書委員じゃない三郎がいるのよ」
「言いましたよね、雷蔵あるところに鉢屋三郎ありって」
「そうだったね」
力なく笑って答えると三郎は私よりも泣きそうな顔なんてするから、変装名人がそれじゃあ駄目でしょうにと苦笑いを浮かべた。
「勿体ないですね、あと一年もしないで卒業だったのに」
きり丸の言葉に五年生二人はぎょっとしたような顔を見せたが、そんな気を使わなくていいのに。
「まぁここを卒業したって経歴は残らないけど、だからって無駄になるわけじゃないからさ」
「へ?」
「半年だとしてもきり丸や怪士丸に出会えたし、これだけたっくさんの友達に出会えて……」
ここまで言った辺りで喉が震え、鼻で息を吸うたびにツンと痛くなった。だめだ、みんなの前で泣くなんて、そんなの。
「…そろそろ出発しよう」
低くてゆったりとした、長次の声。
この声を聞くことができるのも今日までなのかと思うとさらに目の回りは熱を集めるのだが、すぅっと息を吸って口角を上げる。
「ばいばいっ」
***
「長次、さっきは助け船出してくれてありがとう」
途中まで送るという長次に甘え、忍術学園から一つ向こうの町を目指し歩く道中、ほどよい沈黙を破り先程の礼を告げると彼はゆったりと私を見下ろした。
「私は、あの場で泣き言を言っても良かったと思うが」
「馬鹿言わないでよ。別れ際に、しかも先輩が泣くなんてあまりに見たくない姿だよ」
おどけた様子で述べても彼はにこりともしない。まぁ長次の場合笑った方がよろしくない状況だから別に構わないんだけれど。
「こちらには戻ってこられるのか」
「んー。正直父上の容態はもう回復の見込みがなくてね。成功するか分からないくノ一になるより、兄と一緒に農業継いでやっていこうと思うから」
もう戻らないよ、と。自分の口から零れた言葉にとうとう涙腺は決壊してしまった。
「……」
何も言わないで、私の歩幅に合わせゆっくりと歩いてくれるのが長次の優しさだと、気付いたのはいつだろう。優しい彼が、愛しい彼へと変わったのはいつだったろう。
「…またな、」
またな、と彼は言った。
「さよなら、長次」
もう会えないんだよと、さよならをした。暮らす地も、これからの道も、私たちはもう交わることはないのだから。
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