食満留三郎

全部気のせいだ
前髪の分け目が変わったのも
いつもより笑顔でいるのも

それを見つけた俺の胸が、締め付けられるように痛むのも全部、気のせいだ




「お前、本当に戦忍になるのか」
「うん。小さい頃からの憧れだから」

彼女の得意武器である鉄扇の手入れをしながら男の質問に答える。

「なぁ……忍にならないでくれ」

思いがけない言葉に手入れしていた手は止まり、男の瞳を覗く。どうやら、冗談ではないらしい。

「……何で、急に」
「お前が忍になって傷ついてほしくない、俺がお前を守るからだから───」
「私は、戦忍になると決めてこの門をくぐった。行儀習いでも護身術を習いにきたわけでもないんだよ」

忍たまの中にも戦忍を目指す者、そうでない者に分かれるが、くのたまはそれ以上にくノ一を目指すものが少ない。大抵は家を離れての行儀習いなどを目的に入学するからだ。
今年のくのたま六年生に戦忍を目指すものは二人だけ。そのうちの一人がだ。

「この間の実習での腕の怪我、傷痕が残ってしまったんだろ。伊作から聞いた」
「……」
「正直、お前が怪我をする度にこんなに辛い思いをするのは耐えられないんだ、だから」
「『だから、俺のために夢を諦めろ』って?」
「違う、そうじゃない、けど──ッ」
「留三郎はどうなの?私が戦忍にならないでって言ったらあっさり諦める?」
「それは……」

諦められるわけがない。だって、ずっと忍になることを目指し、それしか道はないのだから。

「留三郎、私あなたが大好きだよ」
「俺もだよ、

怯えるように、傍にいることを確かめるように、こちらへ伸ばされた手を繋ぐ。

「だからって留三郎のために夢は諦められない。たとえ忍として無惨な死を迎えたとしても」

言わなきゃよかった、そう思いながらもきっといつかはこうなる時が来るのだと覚悟していた。視線は絡まない。先程からしとしとと降りだした五月雨が二人を閉じ込めたようにここは静かで寒い。繋がれた手だけが唯一の温もりのようにさえ感じる程に。

「……少しも、考え直す気はないのか」
「うん。こればかりはお互いに、譲れはしないでしょう。留三郎」

繋がれた手は、そっと、離れた。 全部気のせいだ
前髪の分け目が変わったのも
いつもより笑顔でいるのも

それを見つけた俺の胸が、締め付けられるように痛むのも全部、気のせいだ




「お前、本当に戦忍になるのか」
「うん。小さい頃からの憧れだから」

彼女の得意武器である鉄扇の手入れをしながら男の質問に答える。

「なぁ……忍にならないでくれ」

思いがけない言葉に手入れしていた手は止まり、男の瞳を覗く。どうやら、冗談ではないらしい。

「……何で、急に」
「お前が忍になって傷ついてほしくない、俺がお前を守るからだから───」
「私は、戦忍になると決めてこの門をくぐった。行儀習いでも護身術を習いにきたわけでもないんだよ」

忍たまの中にも戦忍を目指す者、そうでない者に分かれるが、くのたまはそれ以上にくノ一を目指すものが少ない。大抵は家を離れての行儀習いなどを目的に入学するからだ。
今年のくのたま六年生に戦忍を目指すものは二人だけ。そのうちの一人がだ。

「この間の実習での腕の怪我、傷痕が残ってしまったんだろ。伊作から聞いた」
「……」
「正直、お前が怪我をする度にこんなに辛い思いをするのは耐えられないんだ、だから」
「『だから、俺のために夢を諦めろ』って?」
「違う、そうじゃない、けど──ッ」
「留三郎はどうなの?私が戦忍にならないでって言ったらあっさり諦める?」
「それは……」

諦められるわけがない。だって、ずっと忍になることを目指し、それしか道はないのだから。

「留三郎、私あなたが大好きだよ」
「俺もだよ、

怯えるように、傍にいることを確かめるように、こちらへ伸ばされた手を繋ぐ。

「だからって留三郎のために夢は諦められない。たとえ忍として無惨な死を迎えたとしても」

言わなきゃよかった、そう思いながらもきっといつかはこうなる時が来るのだと覚悟していた。視線は絡まない。先程からしとしとと降りだした五月雨が二人を閉じ込めたようにここは静かで寒い。繋がれた手だけが唯一の温もりのようにさえ感じる程に。

「……少しも、考え直す気はないのか」
「うん。こればかりはお互いに、譲れはしないでしょう。留三郎」

繋がれた手は、そっと、離れた。
 

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