世の中には気付かなきゃ良かった事で溢れている。一度気付くとそこは主張するように激しい熱と痛みを持ち、忘れることなんてできなくなる。
だから何かに気付く余裕を与えないように、私はただ前だけをみる。
「あのねぇ、だからと言って怪我を無視することはできないだろう!?」
格好よく言えば許されるとでも思ったのかと、放置すればするほど辛いのは自分なんだと、他にも色々言ってたがまぁとにかく伊作の説教は長い。
「よく言うよー、手入れの度に私に触れられて嬉しいくせに」
そうからかってやると分かりやすく顔を赤らめてさらに怒りだしてしまった。しばらく喚いた後に自らの用意した薬研に躓きスッ転んだのが可笑しくてたまらない。あぁ傷口に響く。
けたけたと、僕の醜態を笑う彼女の得意武器は猫手。
超接近型で、小柄で身軽な彼女でも武器として容易に扱えるものの、本来なら縛り付けた敵に拷問するときに使うものだ。近付かなければ攻撃は当たらず、敵の攻撃を防ぐことはほぼ不可能という不便さでありながら、彼女は更に自らに縛りをかけている。
「スギヒラタケからとれる毒を使って薬作ったんだ。使ってくれないか?」
「伊作~、私がなんのために猫手を使ってるか分かってないね?そんな強力な毒使ったら簡単に殺してしまうよ」
「そうだよ……」
速効性の毒を使って欲しいと願うのは本当に僕の矛盾をはらんだ大きな我儘だ。
今となっては後悔でしかない。彼女が今の戦いかたを始めたのは僕の叶いもしない願いを知ってからのことだから。敵味方関係なく治療をする僕が、どれだけ命というものを大切に思っているかを、彼女は知ってしまったから。
今だって僕の考えは変わっていないし戦場で怪我人を見つければ迷わず手当てをする。それでも君にはどうか真似しないでほしいと、今日も麻痺薬なんかじゃなく、確実に殺すための薬を作っている。
爪先にたまる利己心
僕の行動全てが勝手な偽善と知る。
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