「多分昔、銃を握ったことある」
「BB弾だろう。幼い頃、お前の的にされたのを忘れていないからな」
「それはごめん。でも違うんだ、BB弾じゃなくて、火薬を詰めて、引き金を引くと鉛の弾が勢いよく発射されるあの銃のことだよ」
ここまで言うとようやく課題ばかり見たいた彼の顔がこちらへとあげられた。うんうん、眉をひそめすぎてとても不細工になっている。
「私が予想するにあれだな」
「うん」
「また昨晩も夜更かしをしてゾンビ映画を見ていたろう」
「うん」
「じゃあそのせいだな」
そう言い捨てるとまたしても目を課題に向けてしまった。ちょっと待て、このままじゃ妄想か戯言かで片付けられてしまうのでは?そんなのは癪だと近くにあった輪ゴムを手にかけてひゅっと飛ばすとそれは見事に彼の綺麗な金色の前髪にはらりと絡んで落ちていった。
「お前な……見ての通り私は今課題で忙しいんだ。お前の相手をしてる暇はない」
「じゃあ課題やりながらでいいから聞いててくれよ」
カリカリとシャーペンの滑る音が気持ちいい。肯定も否定もしない彼を放って瞼を閉じ言葉を紡ぐと、溢れでる水のように次から次へと浮かんでくる。
「最初はさ、好きな人の憧れだった気がするんだよね、共通の趣味がほしくて始めたんだよ」
まるで恋する乙女みたいだろ?そう付け足すと軽く鼻で笑われた。失礼しちゃうぜ。
「好きこそ物の上手なれ、というか好きな人の好きこそ物の上手なれというか。クラスの中では間違いなく一番上手かった自信あるよ」
くるくるり。先程からペンを回してばかりだね、課題が進んじゃいない。
「最近じゃその夢ばっかりをさ、途切れ途切れに見るんだけど、一番衝撃的なのがあって」
聞いてくれる?
それは些細なミスが重なって生まれた大きな悲劇。言い訳をするならば敵の領土に侵入し一週間も経ち、集中力は薄れ疲れはたまっていた。だから自分の装束につく煙硝の臭いに気付かなかったし、敵の動きありと目を凝らした時、背後への警戒を怠ってしまい、あえなく御用となってしまった。縄で手足を縛られ木の上から重力のとおり落下した。危ないという危険信号も作動せず受け身をとらなかったせいでその場でぽっくり意識を失ってしまったのだ。
目を覚まして、敵の館に運ばれた時、周囲を見渡すんじゃなかったんだ。見つけてしまった。会いたかった人を。あからさまに漏れた息。忍でなくとも怪しむくらいの。真ん中に鎮座するヒゲをたくわえたおっさんは言った。
『お前達見知った仲か!さては間者じゃあるまいな!』
ってさ。カンジャがどういけないのか分からなかったけど夢の中の自分は必死に否定してたし、向こうの人も同様に否定していた。でもそのおっさんは構わず大声をあげ続けるし、結局はこちらに向かって黒くて、何か固いものをぶつけてきたんだ。
「何だったでしょう!」
「……銃だろう」
「正解!」
カンジャでないならこの男を撃ってみよ。どうやら“間者”はいけないことだから容疑を晴らさないといけないらしくて、かといってあの人に銃を向けることもできないらしくって。震える手を必死に隠して銃を握った。
「どうしようどうしようって悩む頭で必死に考えて、この後にこう言うんだ」
『敵に捕らえられる生き恥を晒して、その上お前のような男に命令されるなど耐えがたい屈辱だ』
まるで演技をするように。いつもより大人びた声で唱えた。
「その後の自分は一体何をしたでしょう!」
「……何か大切なものを撃ったんだろ」
「残念!そいつが最期に撃ったのは
自身でした!」
「お前の命が、誰かにとっての大切なものだと考えなかったのか…?」
くるりくるりと回っていたシャーペンが、とうとう握られてさえいなかった。勉強しなくていいのかと聞くと「お前がいると勉強が捗らない」と荷物をまとめられあれよあれよと家を出されてしまった。20分間、課題もできず無駄な時間を過ごさせたのは悪いと思ってるけど。
けど、そんな泣きそうな顔しなくてもいいじゃないか。
忘れんぼうの昔話
会いたかった人は、確かにいたのにその顔が分からない。あれは、誰だった?
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