ふざけんなふざけんなふざけんなよ!!
小さなあばら家で菜っ葉を刻む音だけが響く日暮れ前。今夕飯作りをしている俺の顔はさぞかし悲惨だろう。自覚はしている。だからといって笑顔に鼻歌でも歌いながらだなんて御免被るがなッ!
こうなった原因を思い出すと、早いものでもう一年前になるのか。
「忍なんざいつ命を狙われてもおかしくない職だ。一人で全てやりくりするよか二人の方が何かと都合がいいだろう」
夜の会計委員会室は蝋燭一本じゃ頼りない位にほの暗く、今日のノルマを終え夢の国へと旅立った一年二人とおまけに左門を部屋に送り届け、運び損ねた彼らの私物を取りに部屋へ戻った時だった。こちらに背中を向け算盤を弾き続ける文次郎は一人言のようにぶつぶつと言うのだ。不便でないのなら共に住もう、と。告白だと思って慌てたのが馬鹿だった。
文次郎にとってそれに深い意味はなく、ただ純粋に一人より二人の方が何かと金がかからないというわけだ。炊事や洗濯が苦手だから俺に押し付けようとしているんだろうと疑ったが、そこは、その、正直に言うと惚れた弱味というやつで。断るほどの不都合が見当たらなかったから「いいぜ」と答えたのだ。
その時も文次郎は前を向いたまま算盤を弾いていた。
その時に二人で決めたきまりごと。このおんぼろ小屋に先に帰ってきた方が夕飯の仕度を済ませるということ。稼いだ金は二人平等に分けること。今冷静に考えればこの決まりは俺にとっていいことがないのだ。
まず一つ。学園在学時から俺より実力のある文次郎が俺より先に帰宅するなんてことはまずない。それどころか二三日帰ってこないことなんてざらにあるもんだからお陰で俺は本日の夕餉は一人分なのか二人分なのか、食材とにらめっこする日々だ。この間町に野菜を買いに行った時はこの話でおばちゃん達と大盛り上がりだ。どの家も同じような悩みがあるんだなぁ…俺ぁいい旦那になるぜ
そして二つ目。稼ぎなんて、文次郎の方が圧倒的に高いのに、それを平等に分けるなど、あいつにとっては損でしかないはずだ。言いたくはないが、俺一人分の給金なぞたかが知れている。食べていくのに精一杯程度にしか稼げていないのだ。つまり文次郎に助けられている。それが癪で仕方がない。
「そして……今日も帰ってこないのかあいつはァッ!」
太陽が沈んで月が昇る。一人でこれを見るのは今日で何日目だ?昔から待ちぼうけほど嫌いなものはない。待ってだめなら迎えに行け。次の仕事先ならそれとなく探りを入れてあるから問題ない。今行くぞ、文次郎!
***
「あっ!たむっきー!?」
「……その呼び名は止めてくださいとあれほど」
「今更じゃね?」
学園時代を彷彿させる懐かしいやり取りににやけてしまうのも仕方ない。少しでも話す時間あるだろうかと然り気無く湯飲み二つ取り出すと、田村は言いたいことを理解したようで「日没までなら」と湯飲みを受け取った。
「───…というわけなのさ、ひどいと思わね?文次郎のやつ」
一通り話し終えるとたむっきーはなんとも渋い顔をしていた。お茶、美味しくなかったかなぁ。この間お茶屋の子に教えてもらった通りに作ったのに。
「何故私は先輩ののろけ話を聞かにゃならんのですか」
「は?のろけ話??」
何言ってんだこいつは。卒業してから頭でも打ったのだろうか。心配。
「とにかく先輩達は一度腹を割って話すべきです」
「流石の文次郎もそんなことしたら死ぬんじゃないだろうか……」
「あぁもうッ!」
すれ違い愛
結局
先輩は「百聞は一見にしかず」と少し意味の違う言葉を残して潮江先輩を探しに向かった。本人の自覚の有無は別としてあの人は優秀な忍だ。おそらく潮江先輩を見つけ出しひょっこり連れて帰ることだろう。
私が帳簿の提出に会計委員室に向かった冬の冷える夜。ほぼ入れ違いで部屋を出た
先輩はなんとも表現しがたい、頭に疑問符を浮かべたような不細工な顔をしていた。私が頭を垂れすれ違うときにはもうすっかり忘れたようにいつもの調子で「お疲れたむっきー!」と背中を叩いていかれたが。寒さでおかしくなってるのかと諦め会計委員室に足をいれるとどう見ても顔を赤らめ居心地の悪そうな潮江先輩がいらんほど大きな音をたて算盤をバシバシ弾いていた。
察しのいい私は遂に潮江先輩が「卒業後も一緒にいよう」と仰ったのだと感じとりながら、何事もないよう帳簿の計算に取りかかったのだが、潮江先輩は「今日は暑いな」と襖を全開にしやがった。私は翌日風邪引いた。
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