俺の秘かな浸透計画

嫌よ嫌よも好きのうちとはよく言うが。

「んっ…痛い、勘右衛門…っ」
「これでも十分優しく触ってるよ」
「いや…痛い、痛い…っ痛いって…言ってるやろ、がいッ!」
「うわぁ!?!?!?」

ビターンと鳴る畳の音を聞く限り投げられた勘右衛門は受け身をとったのだろう。悔しげに舌打ちを鳴らしながら好き放題触られた髪を手櫛で整える。

「何度も言うけど、私頭触られるの嫌いなわけッ!そして何故面白味もない私の髪を触るかな君はッ!」
「正直面白いよ~髪質が八左ヱ門みたいで」
「お前の摩訶不思議ヘアに言われたくないわッ!」

どれだけ強くしつこく注意したってこの様だ。最初は嫌で嫌で仕方なかったのに、段々諦めてきている自分がいるのが恐ろしい。そのうち特に不快感を抱かなくなるのだろうかと思うと身震いがする。

「そろそろ慣れた?」
「慣れるか!お前こそいい加減懲りろ!」

手元にあった筆を乱定剣よろしく打ってやれば、それはものの見事に奴の眉間へと命中し、私はわざとらしく笑ってやった。まぁ実際可笑しくて仕方なかったのだが。

「本っ当にしつこいな勘右衛門。そもそも私たちこんな髪をいじったりするほど仲のいい間柄だったか?」
「ひどいなぁ、仲良くなるためのスキンシップだよ」
「いらない、帰れ」

チラッと盗み見ると、さして気にしてない様子で律儀に投げ飛ばした筆を元に戻している。

「あのさぁ、いつまでここにいるのかね君は」
「そんなつれないこと言わないでよ。今まで実習でいなかったから寂しかったんだからさ」

そうなんだよ。私達くのたまは今朝がた実習から帰ってきたばかりなのだ。馬鹿な忍たまどもには朝帰り?なんて聞かれるが放っておけ。隣村を夜に出たから帰りがこんな時間になってしまったのだ。

「実習帰りだと分かってるなら余計出ていってほしいわけ。こっちは昨日から寝てないんだよ」
「俺が膝を貸してやるってっ」
「帰れッ!」

このままではきりがないから、外からの日の光によく似合うその笑顔もピシャリと閉めた襖の向こうに消してやった。



「やれやれ」
閉め出されてしまっては流石にここまでかと観念し、また来たの?と笑っているくのたまに愛想を振りまき忍たま長屋へと戻る。


俺が初めて彼女に興味を抱いたのはじきに五年生にあがるとみなが浮き足立つようなそんな時分だった。忍たま五年生になる物好きなくのたまでも見に行こうとひっそりこっそりくのたま長屋へ行ったとき出くわしたのがとその友人たち。
「よう」と、手をあげたときにそれに気付いたのは自惚れではなく、多分俺だけ。
伸ばされた手から逃げるように後退り頬をひきつらせるその姿は彼女の生い立ちを語るに十分だろう。

『私、頭触られるの嫌いなんだよね』

嫌い、というより怖いんだろう?



いつかあの染み付いた恐怖をぬぐい去ってやる。  



   戻る