「ぶえぁっくしょいあぁ~~……ん、何ですか」
「……いや、今さら何も言うまい」
今に始まったことではない。
平気で胡座をかくところも、容赦なく鼻をかむところも「便所行ってきまーす」……便所、などと平気で言うところも。厠へ行った
の背を見送り、大きくため息をつくと同時に頭を抱えた。
「お前の趣味がわからん」
出ていった
とすれ違ったのだろう文次郎が相も変わらず不細工な顔で戻ってきて早速悪態をつく。
「校庭をくねくねと歩いていたからまた何かしてやがると声をかけたら『便所に向かう途中です』と答えやがった。便所などと、女としての品がないな」
「ジェンダー問題ですぅ」
文次郎の言葉が頭にきたので何か言い返そうとした時だった。突然部屋の外から当人の声が聞こえ情けなくも二人して目を丸くしたのだ。
「お前……ッ!相変わらず気配を消すのだけはプロ級だな!」
「は?馬鹿の一つ覚えですって?」
「そこまで言ってない!」
じぇんだぁ問題……おそらくきり丸のよく使う「アルバイト」と同じ言語なのだろう。まったくどこからそういった言葉を拾ってくるのやら。
「ところで、何故そんなに裾が汚れているんだ。さっきまできれいだったろう」
「流石立花先輩よくお気づきで~便所に行く途中何個か落とし穴に遭遇したので後輩や伊作先輩が引っ掛かる前にダメにしておきました」
なるほど、喜八郎のやつがたまに不機嫌丸だしの顔で
の文句を言っていたのはこの事か。いたずらっ子のような笑みを浮かべカラカラと笑う今のこいつと対面したら、さぞ面白いものが見られそうだな。
「何にやついているんだ仙蔵」
「潮江先輩と違ってそんな顔でも様になるんだから尊敬します」
「この野郎……!」
目の前で争う二人が鬱陶しいったらありゃしない。完全に蚊帳の外となり、二人に背を向け本に没頭しようと試みるが、なんせこんなに騒がしい部屋だ。落ち着いて本も読めやしない。
(腹立たしい……)
この腹立たしさが騒がしいことにあるものではないと、気付いている。ただそれが私の一方的なものだとしたらと悔しいので気付かぬふりをしているだけだ。
「おい文次郎。何時までも
と話していると阿呆が移るぞ」
「んん?それもそうだな」
ニタリ、の表現が似合いそうな笑みを浮かべる文次郎の横で、
は眉を下げた。
「なんだ、文次郎と話足りないか?」
嫌になるな、自分でも意地悪な物言いだ。ぽかんとした顔でこちらを見ているのだろう。目を見ることができないが中途半端に開いた口でぱくぱくと息をしているのが見える。
「立花先輩が、私の名前を口にしてくださるなんて……っ!」
正気かこいつは。顔を拝むとなんとも幸せそうな顔で笑うこいつと目が合ってしまった。
「お前なぁ……」
顔に熱が集まるのを隠すように顔を背けると「どうしたんですか」などとのぞきこむものだから私の方が逃げるように部屋をでて前を向いたまま襖を閉めた。頬を撫で髪をなびかせる風は紅潮した頬を心地よく冷ます。
困ったものだ
まったく。もう少し自覚し自惚れてもいいんだぞ。この私がお前なんぞに惚れてしまっているということを。
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