なんの感覚もない

「滝、今度の実習はこの装束行ってね」
「何故だ?」
「滝が死にませんようにって塩振り撒いたりお清めの水をかけたりしたの」
「なんだかシワだらけだしまだ微妙に濡れているしで嫌がらせにしか思えないのだが……まぁお前が私のためにしてくれたことならばこれくらい我慢して着ようじゃないか!」
「よかった~っ」

手を叩き笑う姿は、まるで花のようだ。


   ***

「では行ってくる」
「気を付けてね、滝。三木も綾部君もタカ丸さんも浜君も」
「不安だなぁ~今回の実習は個別任務だもん」
「大丈夫、タカ丸さんと守一郎は難易度下げてあるって言ってたましたし」
「そろそろ行くぞ」
「よぉし頑張るぞー!」

タカ丸さん、喜八郎、三木ヱ門、守一郎の順に校門をくぐり、最後になった私はの手の甲に優しく口づけをする。

「そんな不安そうな顔をするな。まぁ確かに、教科や実技の成績がよく更には歌舞音曲に秀でている私の任務は多少の難易度も伴うが私ほどの実力者ならそれさえも華麗にぐだぐだぐだぐだ」

の不安を和らげようと始めた一人語りは、当の本人の唇により止められた。

「滝、過信することなかれ、だよ」
「~~っ、わ、分かっている」

情けないことに、きっと私の顔は赤くなっているのだろう。私の顔を見るも顔を赤くしているように。

「行ってくる」
「行ってらっしゃい、気を付けて」

自惚れだなんだと言われようと、彼女の笑顔を一番見ているのはきっと私だ。なんといっても私は彼女を笑顔にする天才なのだ。


   ***


なのに

───実習は失敗だろうか。
いや、目的の密書は敵の手に渡ることを防いだし、私は死んでいない。学年の中でもかなり難易度の高い任務なのだから合格だろう。
それでも喜べない。ただただ悲しいのはこれからあいつを泣かせてしまうと分かっているから。


学園への足取りが重い。それでも駆けているのはやはり早くお前に会いたいのだ。まったく、女一人にここまで揺さぶられるのだから忍者の三禁に色が含まれるのがよくわかる。
音を消し息を殺し学園へ戻り、とにかく真っ赤になった腕をどうにかしなければならない。


「滝……?」

迂闊だった。彼女もまた忍者の端くれで、くのたまなのだ。気配を消して医務室に向かったのがかえって仇となった。

「……無事に、戻ったぞ」
「……、……あ……、」

止まることを知らない涙が彼女の頬を伝っている。

「滝、腕痛くないの……?」
「この優秀な平滝夜叉丸だぞ!これしきの傷痛くはないさ」
「……本当、に?」

嗚呼、お前に泣かれるのは一番嫌なのだ。

「あぁ、痛みなんて感じない」

私の手に落ちるお前の涙も私の腕を掴むお前の手の暖かさも



お前の泣き声を聞くのなら、腕だけでなく心の感覚も奪ってくれと何度願ったか  



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