きっとこれからも、彼はこの状態を貫くのだろう。
初めて会ったとき、何故か文次郎は目を潤ませていたのでよく覚えてる。
あの時は、まぁ、「どうしたんですか」なんて言って無自覚に彼を傷つけたんだっけ。
私が全てを思い出すことができたのは、それから約二ヶ月後。このまま私が口を閉ざしていれば、古傷に触れないで平和な今だけを見て過ごしていける。静かで穏やかになった後悔の海を荒立てるようなことはしなくていい。
きっとこれからも、彼は当時の罪滅ぼしとして私の横にいてくれるんだろう。
でもそれは───
「
」
「ん?」
ぼーっとしていた私を心配したのか前を歩いていたはずの文次郎が少し体を屈め顔を覗きこんだ。
「考え事か」
「まぁそんなとこ」
「突然黙りこむな」
「ごめんね」
幸運か必然か、生まれ変わった今生でも私は文次郎が好きだ。だから過去に囚われる彼が側を離れない現状を手放せずにいる。なんと狡いことか。あれは、誰が悪いわけでもないんだから。
「文次郎」
突然改まった呼ばれかたをして驚いたのか、少し前を歩いていた彼は驚いたようにこちらを振り返り足を止めた。
「私、幸せだよ。今も昔も」
「……
?」
「文次郎があの時の罪悪感で傍にいてくれているのならもういいよ」
「
お前───」
「私が」
「……っ」
「あの時文次郎に伝えたかったのは、責める言葉じゃなくてね」
少しずつ自分の声が上ずっていくのがわかる。それでも何故か心は穏やかで、あの時の記憶と文次郎にかける言葉を丁寧に紡いでゆく。
「ただひとこと」
俺の手裏剣は彼女の足を打った。
殺すつもりはなかった。
ここは人のない森の中。 戦が終わるまでここで動けずに大人しくしてくれればいい。そうすれば殺さずに済む。汗ばんだ
の肌は転んだ拍子に泥にまみれ、小さく開き何かを伝える口は
俺の部下による射撃によって強制的に
閉ざされた。
俺達の勝利に終わり、あいつの仕えた城は炎に消えた。
「……──ッ」
城に戻るより先に森へと駆けた。そこに横たわるあいつの亡骸はあのときのまま、少しも土壌に侵食されることなく、美しくさえ見えた。
「
……冷たい……冷たいな……」
初めて触れる肌は、もう何もない。
「冷たいな……
……っ」
「私ね、あのとき『大好き』とか『愛してる』とか『久しぶり』とか色々言いたいことがあったんだけど」
「泣かないで」とそれだけを
「ようやく伝えられたね」
彼は何も答えないまま、私を強く抱き締めた。
涙で濡れ赤くなった顔を隠すので精一杯なのだ。
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