星空に願う

「ごめんよ!次の休み、裏裏裏山まで薬草摘みに行かなくちゃ行けなくなって……」

今度の休みは、久しぶりにと町に遊びに行く約束だったのに。
しんべヱおすすめの茶屋に行って、そのあとは二人で裏裏山まで星空を見にピクニックに行こうって約束したのに。

「それは仕方ないよ伊作。気にしないで」

僕に気遣ってくれる姿に更に申し訳なくなって、もう一度ごめんと頭を下げた。

「今度……今度の今度の休みこそ埋め合わせするから!」

いつもと同じ困った笑顔を浮かべていても、その目元はいつもと少し違う。

「伊作、こういうのもうやめよう?」
「え……?」

あまりに衝撃的な言葉に顔を見ることもできず、彼女が山本シナ先生に呼ばれ去って行くまで、ぼうっと突っ立っていた。


   ***

「うをぉっ!?どうした伊作、随分暗いじゃないか」
「聞くな文次郎、察しろ」

大声出して驚く文次郎も変に気を遣う留三郎も鬱陶しいから黙ってAランチ食べてどこかへ行ってくれよもう。

と何があったんだ?」

面倒だが聞いてやる、と仙蔵に問い詰められては観念せざるを得ない。
こんな陰鬱な雰囲気丸出しでは委員会の後輩たちにも迷惑をかけてしまうだろうし。

「実はね……」


「うん!それはフられたな伊作!」
「小平太!!」

自分でもそうだろうと分かってはいたが、いざ小平太に言葉にされると改めてショックで頭が真っ白になる。

「約束した日に限って委員会の仕事が入ったり、患者が多かったり僕がトイレットペーパーぶちまけたりほかにも……」
「ここまで不運だと同情を禁じ得ないな」

ご愁傷様とご飯をかきこむ小平太の箸使いも、今日は注意する気にならない。

「おい伊作、噂をすればなんとやらだぞ」
「え!?」

留三郎に突かれ顔を上げると、どうやら授業を終えたらしいくのたま達が食堂へやってきた。その中には当然彼女の姿もあって、心臓は急に心拍数をあげた。

「おう!すごいタイミングだなぁ!」

やめてくれよ小平太なんでそんなこと言うんだ!なんて心の叫びは通じるはずもなく、名前を呼ばれた彼女は僕たちの方へ顔を向ける。

「小平太、何のこと?」
「いや何でもない!細かいことは気にするな!」
「はいはい。あと、箸の持ち方間違ってるよ」

じゃあみんなごゆっくり、と挨拶を残し、ほかのくのたまたちと奥の席へ座った。

<特に気まずい雰囲気にはなってないじゃないか>
<そりゃ相手はくのたまだぞ、そんなすぐ顔に出すような阿呆ではないだろ>
<テメェに言ってねぇよあほ文次>

「んだとぉ!!」
「うるさい!ケンカなら矢羽音でやれ!」
「仙蔵…そういう問題ではない……」
「細かいことは気にするな!」

ちらりと盗み見たは、こちらを見て楽しげに笑っていた。まるで、何もなかったように。僕の気持ちなんて知らないで。

「はぁ……」

賑やかな食堂に不釣り合いなため息が溢れた。


   ***

「伊作先輩~今日はいっぱい薬草を見つけましたね~」
「そうだね乱太郎」
「こんなにいいことがあると、これから何か不運なことが起こるんじゃないかと不安になりますね~」
「それは大丈夫だよ乱太郎」

今日という日に薬草摘みに行くこと自体が僕の不運だ、とは言えないけど。

「おや?薬草摘みの帰り道、前方から近寄ってくるのは伊作先輩と同室の食満留三郎先輩ではありませんか?」
「説明臭い台詞をどうもありがとう。伊作、その籠は俺が背負って帰る。お前はこの荷物を持って裏裏山まで走れ」
「「え!?」」
「どうしたんだい急にっ」
「そうですよ、それにもうこんな暗くなって……」
「だからだよ」

留三郎の言葉に息をのんだ。

「一人で行ったの?」
「あぁそうみたいだ。俺もさっき気づいてな」

ほらさっさと行く!と背中を押され、薬草を乱太郎と留三郎に頼み山道を急いだ。


 
いた…本当にいた……!
留三郎を疑っていたわけじゃない。でも、こんな夜遅くに女の子が一人いるなんて危なくて、もうとっくに帰ったのかと諦めていたのに。
地面を蹴る足は、速度を上げる。


!!」
「?え、伊作っ!?」

石に蹴躓いて転びそうになったけど、そこは彼女が抱きとめてくれて、だからこそ気付く。忍装束がとても冷たくなっていた。

「もう……!女の子が一人で山に登っちゃ危ないじゃないか!なんでこんなところにいるの!」
「何でって、今日は二人で裏裏山に星空ピクニックする予定だったでしょ?」

反故になっちゃったけど、とつぶやきが聞こえ罪悪感に締め付けられる。

「私、伊作との約束がダメになっちゃっても、いつも一人で行ってるんだよ」
「え?」
「新しくできたって噂になった茶屋も、梅の花が綺麗だって通りもあの簪屋も、伊作との逢引コース、いつも一人で回ってるから今日も来たんだ。下見みたいなもんだね」

本当は二人で歩くはずだった道を、彼女一人で歩かせていたなんて、申し訳なくて、これから僕たちが、二人で歩くことはもうないのかと思うと、悲しくて……

「どうしたの伊作っ、何で泣いてるの?」
「何でって……僕たち、もう別れたんだから……はもうこんなことしなくてもいいんだよ……っ」

冷たくなった肩をつかんで、涙ながらにこたえると、僕の手に彼女の冷たい手が乗せられた。

「伊作、勘違いしてるよ」
「え?」
「ここ最近、伊作が冷たいの何でだろうって思ったら、そんな勘違いしてたんだね」
「どういうこと?」
「私が『こういうの、もうやめよう』って言ったのは、そういう事じゃないよ」

というと、言葉を急かす声が掠れていて情けない。同じことを思ったらしいも頭を傾けて笑っている。

「伊作の『埋め合わせ』っていうのが嫌だったんだ」
「いつも『ごめんね』『埋め合わせするからね』って、まるで義務みたいに背負う伊作がいやだからもうやめようって言ったのに。言葉足らずでごめんね」
「そんなの……」

思いもしなかった。この子はどこまで僕に甘いんだ。

、今度、いっぱい回ろうね!今まで一緒に行けなかったところ全部回ろう!」
「うん。楽しみにしてる」




「でも私は、伊作が幸せそうにしてればそれだけで十分幸せなんだけどね」

静かな声だったけど、誰もいないこの丘での声を聞き逃すわけがない。今が夜で良かった。僕の顔情けないほど熱くなってるし!  



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