籍にいろうと言ってくれ

あれは、僕が何年生の時だろう。
学年さえも忘れてしまったのに、あの時の二人の会話はまだ覚えている。

僕しかいない静かな図書室にがらりと入ってきたのは中在家先輩だ。

「先輩!もうお怪我は大丈夫ですか!?」
「…あぁ、雷蔵には、迷惑をかけたな」
「迷惑だなんてそんな…」

元々物静かだった中在家先輩だが、縄鏢の鍛錬中に負った怪我のせいで更に寡黙になられたようだ。

「失礼するよ」

夕日を浴びながら、軽い口調で入ってきたのは先輩。中在家先輩と同い年のくのたまで、周りのくのたまより大人びて物静かな彼女は、ひそかに僕の憧れで。

「借りていた本を返しに来たんだ。雷蔵、これを頼む」
「はい、確かにお返しいただきました」

僕が本を戻して後、先輩は中在家先輩と話をしていた。

「長次」
「?」

「お前より先に草葉の陰に入るのは私だ。忘れてくれるなよ」

「…。そうしたら、私は跡を追おう」

「それは困るな。そうなる前に煙となって姿を消そう」

「…では、そうなる前にお前の元へ訪ねよう」

「たとえ、不帰の客になろうとも?」

「あぁ、共に鬼籍に入ろう」

「……いや、そこは───」


そこから先、先輩はなんと言ったのかが聞こえなかった。
ただ、楽しげに部屋を出た先輩と、
先輩が去った後、わずかにほほ笑んだ中在家先輩の顔は、まだ覚えている。




「あの時、先輩はなんと仰ったんですか?」
「……よく、覚えていたな」
「えぇ、あれが僕が本に夢中になったきっかけですから」

あの時は、あの二人の会話の本当の意味が分からなかったが、あの言葉は全て、同じ意味を示していたんだ。

「あの時あいつは…」


『いや、そこは───』





結局、中在家先輩は何と言ったか教えてはくれなかったけど、ただ、先輩はわずかにほほ笑んだ。  



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