幸せにする!

誰かが言った。

『七松とは付き合えない』
『彼はこちらの気も考えず』
『好き勝手やりそう』
『こちらが疲れてしまう』
『付き合う子の気がしれない』

彼女らは知らない。
小平太がそんなやつではないことを。

彼女らは知らない。
小平太が、その話を聞いていたことを。





!」
「何、小平太」

さっきまで並んで歩いていたはずの小平太は数歩後ろに立っており、彼の声につられ私も振り返る。

「私はお前が好きだ!」
「うん」
「だから一緒にはいられない!」
「……それ、少し矛盾してない?」
「何故だ!」
「だって、普通は好きな人と一緒にいたいものでしょ?」
「私は、好きな奴を困らせたくない!」

その言葉、小平太は前にくのたま達が話していたことをまだ気にしているんだ。

「私は何も気にしないよ」

そういうと、彼に似合わない困り笑顔をを浮かべながら忍たま長屋へ帰って行き、何もかける言葉が見つけられない私は、ただ離れて行く背中を見送った。


   ***

あれから食堂で何回か小平太を見かけることはあっても、気まずさを感じることはなかった。
まるであれはただの報告だったというような気軽さで、私は少し……いや、かなりがっかりしたのだが、小平太が気負いしていないならそれでいい。

「ごちそうさまでした」

食堂をでて、さて今日の放課後は何して過ごそうかと悩んでいるとき、ふと後ろから声をかけられた。

ちゃん、ちょっといいかな」
「え、利吉さん?」

山田先生に御用ですか、と、もはや決まり文句となった台詞を口にすると、それについて相談があると切り出された。

「父上が次の休みも帰れないと言ってね。代わりと言ってはなんだが、母上に何か贈り物を買って帰ってくれと仰ったんだ」

本来なら山田先生本人が買いに行くのが筋だが、今日も今日とてあいにくの補習。
生徒を放って奥さんの贈り物を買いに行くわけにもいかず、仕方なく利吉さんに頼んだそうだ。

「私だって忙しい身だし、女性が何を貰ったら喜ぶのかがいまいち難しくてね…」
「私で良ければ、お買い物付き合いますよ」
「そうか、助かるよ」

そういって小首を傾げ喜ぶのだが、これを無意識でやっているのならこの人は相当な天然タラシだなぁ。
勿論そんな失礼なことを口にはせず、着替えるべくくのたま長屋へ向かった。



   ***

今日の委員会について連絡するため、滝夜叉丸を探している時だった。

「お待たせしましたっ」

聞きなれたアイツの声を耳にし、思わず声のするほうへ顔を向ける。
どこかへ行くのか、洒落込んだ格好をしたが、利吉さんに向かって笑いかけているじゃないか。

「あ、小平太っ」

私の視線に気づいたのか、こちらに笑顔を向けるにどこか意地悪な気持ちになって、利吉さんにお辞儀だけ済ませ四年生長屋へ急いだ。

「小平太?」

あいつの絹糸のような細い声も曇った表情も全部見ないふりをした。


「それにしてもツいてない……」

あの後の委員会では、滝夜叉丸だけでなく、三之助や金吾にまで怒られるし、塹壕掘りでは苦無を一本駄目にしてしまうしで散々だった。

「何かあったのか」
「長次」

そうだ、困った時の長次だ!

今日あったことをすべて話すと、長次は黙って話を聞き、少し考えてからゆっくり口を開いた。

「……それは、小平太に非がある」
「なんで!」

長次なら私の味方をしてくれると思っていたのに、これは予想外だ。

「お前が、『共にいない』と言ったのなら、が誰と出かけようとお前には関係ない。そのことでお前が不機嫌になるのはお門違いだろう」
「むむ……」

長次はいつも、正論を言うなぁ。


いくら春先と言えど、夜の風はそれなりに冷たかった。だが、どれだけ待たされようと今日言うぞ。明日では私が忘れてしまうかもしれないからな。

「ありがとうちゃん。おかげで母上にいい贈り物が用意できたよ」
「こちらこそ楽しかったです。お土産まで、ありがとうございました」

外から二人の会話が聞こえ、その声が近くなるごとに私の心拍数も仄かに上がる。では、と別れを告げ、が学園に戻ったタイミングを見計らい、声を、かける。


「ん?あぁ小平太、ただいま」
「お、おかえり」

昼間にあんなそっけない態度をとってしまったのに、は変わらない笑顔を向け、こちらに体を向けた。

「お前に、言いたいことがある」
「どうしたの?」

一度も、目はそらさない。

「私はお前が好きだ」
「うん」
「迷惑なら、無かったことにしてく──」
「小平太」
「はいッ」

ズカズカと折角の着物が着崩れるのも構わず接近してくる姿が妙に怖い。

「合同実習で皆が嫌がる中率先して小平太とペアを組んだり、早朝のいけどんマラソンに付き合ったり小平太の分の煮豆食べてあげたりしてるんだよ」

改めて言葉にされるとなかなかひどいな私。

「嬉しいにきまってるでしょ」
「へ?」
「小平太、私、小平太が大好きなんだよ」

そういって頬を染め笑う顔が愛しい。
私は、絶対こいつを困らせたりなんかしない





「なぁ
「うん?」
「手、繋いでいいか?」
「もちろん」

利吉さんがくださったというお団子を、一緒に食べよう。
あぁ、長次も一緒でいいか?
なんせ私が幸せになれたのは、長次の後押しのおかげだしな!  



   戻る