ふわふわとした柔らかいたんぽぽのような黄色い髪。表情に合わせて赤くなる頬。大きく口を開けてふにゃふにゃと笑う顔は会う人すべてを笑顔にさせる。まさに『太陽の子』と呼ばれるにふさわしい子供だった。それが“個性”によるものなのか元来の性格かはわからないが、隣に住む常闇踏影にとっての存在はあまりに厄介だった。

「カゲ君~シャドー!」
「ゲェ!?またあいつキタ!追っ払エ!」
「むり言うな……」

常闇の“個性”を思えばいつでも小さな太陽のような灯りを出せるは避けたいところだが、媚びる様子も物珍しさからという下心もなく、純粋に友達として歩み寄る少年を振り払う事が出来ないでいた。何よりこの笑顔を曇らせたくないのだ。だからダークシャドウが横で文句を言おうとも常闇はの傍にいた。

「見て~!あたらしいくつ!」
「む、めずらしいな。おやが選んだのか?」
「ううん。じぶんでえらんだよ!」
「オメェ似合わねェナ!黒色!」
「えぇ~?」

淡い色のシャツに白色の半ズボン赤い膝小僧に水色の靴下。そこに黒いスポーツシューズは確かに不釣り合いではあった。しかし

「カゲ君の好きな色だから!」

そう言ってはにかむ相手にそんな事言えるだろうか。常闇は黙ってダークシャドウの口を塞いだ。


   ***

小学校にあがればこれまでの関係は絶たれるだろうと高を括っていた常闇の思惑は外れ、は今までと変わらずにこにこと笑いながら常闇の横にいた。

「ほかにも友人はいるだろう。学校内ではそっちに行け」
「ぼくがカゲ君と一緒にいたいの」

小学生は残酷で、“個性”が一般的になった今でも他者と容姿の異なる者への風当たりは強い。言葉に責任を持たない小学生は特に常闇をからかう事を楽しんでいたし、そんな常闇と一緒にいるもついでにとからかいの対象になっていた。それに怒るのはダークシャドウの役割で、常闇は常にダークシャドウが相手を傷つけないよう抑えるのに精いっぱいで、は相手に言い返すでもなく黙ってやり過ごしていた。

中学校にあがればそういった容姿をいじる言葉は減るものの、学区が変わらない以上『いじられキャラ』という立ち位置は変わらない。ただの冗談だと流してしまえばそれまでだが、ダークシャドウは一つ一つにムキになって返している。

「なンで言い返さないんダヨ!」
「うん~?別に気にならないし。カゲ君が本当に嫌がる事されたら許さないけど」
「これだって嫌ダロ!?」
「気にならないよねぇ?」
「ハア……うるさいぞ二人とも」

普段の学校ならまだしもここは市外。中学校の恒例行事でもあるキャンプに来ている最中である。制服で来ている以上目立つようなことはするなと言うが、その実常闇の中にある拭えない不安要素のせいで到底話を楽しむ気分にはなれなかったのだ。勿論口には出さないが。

「カゲ君?」
「……なんだ」
「ううん。なんでもない。あ、もうすぐ山頂だって~」
「こら走るな。また転ぶぞ」
「ヒエェ眩しイ……!」

木が覆い茂る山間部を抜けてしまえば木陰もなく、ダークシャドウは常闇の中へとするする入っていく。それを確認してほっと息を吐いた常闇はとクラスメイトの集まるチェックポイントへ足を進めた。

、常闇。オレらのクラスは夕食後のレクで肝試しやるけど参加するよな?」
「うん!僕もやる~」
「俺は、いい」

常闇の回答はにとっても意外だったらしく、ただでさえ丸い目をさらに丸くさせた。

「やらないの?」
「あぁ、俺はいい」
「お前らセットだもんな。もやめるか?」
「ううん。僕は参加する~」

今度はクラスメイトが目を丸くした。しかし当人たちは特段驚いた様子もなく、それじゃあ後で合流するよと言いながら二人でカレー作りの準備に取り掛かったためクラスメイトは珍しい事もあるもんだと独り言を言うしかなかったが、その日の夜はが一人だけ参加したことで数も偶数となり、肝試しは大いに盛り上がった。


   ***

「カゲ君?」

興奮冷めやらぬクラスメイト達と盛り上がり部屋に戻るのが遅くなってしまったから、もしかしたら常闇はもう寝ているかもしれない。同部屋のクラスメイト達とそう話してゆっくり部屋の扉を開けたはいいが、どうも人のいる気配はない。一緒に探すというクラスメイトには先に寝ていてと伝えては単身、廊下の一番隅の部屋へ行き遠慮なく戸を開けた。中に常闇がいることを分かっているように。ダークシャドウが掴みかかってくるのをわかっているように。

「やめろ…っダークシャドウ……ッ」

苦しそうな声は常闇のものだ。部屋の奥で両膝をついて堪えるように背を丸めている。

「大丈夫?カゲ君」
「すまない……ッ」

早く出て行ってくれ。そういうべきなのに、一人息を殺して耐えていた部屋にが来たことで感じた安堵のせいで言うべき言葉を吐けないでいる。友人を怪我させてしまうかもしれないこの状況で自分の気持ちを優先させてしまうことへの嫌悪感で吐きそうだ。

「ううん。謝るのは僕の方だよ」
「……っ?」
「ごめんね、ダークシャドウ」

親指と人差し指をくっつけて輪を作り、そこへ息を吹きかける。シャボン玉の要領で小さな、小さな“太陽”が出てきた。

「ギャッ!!」
「ごめんね、ダークシャドウ~」

薄橙の光をまとった小さなシャボン玉を2、3個作るといまだ息の荒い常闇の隣に座って笑った。突然の光にダークシャドウは逃げるように常闇の中へと入っていく。

「リトル太陽ね、今じゃ3個まで出せるようになったの」
「そうか」
「熱くないよ、触る?」
「いや、いい」
「そう」

そっけない対応の常闇も隣で“太陽”をいじるもお互いを気にすることなく肩を並べ呼吸を続ける。外の賑わいからこっそり隠れたこの静かな部屋に見合った声では「ねぇ」と声を発した。

「中学生になってから一気に体が大きくなったでしょ。“個性”もそれと同じだって本で読んだ」
「そうか」
「だからカゲ君が気に病む事じゃないよ」
「……」
「僕がいるし」

今はまだ。どちらもそのことは口にしなかった。

「それにしても、なんで隠れたの?電気つけていれば良かったのに」
「……本来この部屋は我々が使用する場所ではない。“個性”の特性上、教員の許可を得て特別に使用させてもらっているんだ。目立つことはできない。被害を与える相手がいないなら暗くても問題ないと思ったんだ」
「真面目だねぇ」

は口に手を当てて声を潜めるように笑った。何もまで付き合う必要はないのに、その光景がおかしくて常闇も少し笑えた。そのまま二人して眠ってしまい、翌日様子を見に来た教師に叱られたのだが、それだって後の楽しかった思い出だ。



   ***

「なんか、ムキッとした?」
「開口一番がそれか」
「あはは。いやぁ、一年近く見ない間に急成長するからびっくりしちゃって!」
「そういうお前はかなり……」
「イメチェン~」

ずっと一緒だったのは中学の2年生までで、3年のクラス分けは進路の関係で離れ、高校は当然別々。ようやく新しい環境に慣れたという頃に雄英が全寮制になったため会うのは久々だった。それにしても、と常闇は思う。1年以上見ていない間には髪を短く切りそろえ体格よりいくらか大きめのワイシャツに引っ掛けるだけのような緩いネクタイという姿で、いつの間にか常闇の背を抜いていた。

「……」
「ん?なぁに?」
「いや……」

覗き込まれてつい目をそらすと、通行人がこちらを見ていることに気付いて尚更気まずい気持ちになった。もそれに気付いたのか、あぁと口を開く。

「カゲ有名だもんなぁ。体育祭、超かっこよかった」
「『カゲ』……」

まさに鳩に豆鉄砲。前に会った時は常闇と並んで歩いていたと思っていたのに、いつの間にか向かい合って話す間柄だ。

「そういえばダークシャドウを制御できるようになったんだって?おばさんがそんな事言ってた」
「あぁ」
「そっか」

少しだけ表情を曇らせたかと思いきや、見間違いかと思うくらいすぐにまた笑った。

「お役御免は寂しいけど、カゲとダークシャドウの成長は超~嬉しいね」
「お役御免だと?」

がどういう意図でその言葉を使ったのか、昔であれば手に取るように分かったのに、一年でそれすら出来なくなってしまうとは。先ほどから感じていた余所余所しさの原因はきっとこれだろう。既に切り上げようとしているの腕を掴んで動きを止めるなど昔ならまずしなかったから、は目を丸くした。

「環境が変わろうとも、お前は俺の友人であり理解者だ。俺が、雄英の生徒だからという理由で遠ざかるならそれは違う」
「ほんと?普通の冴えない高校生と一緒にいてカゲ恥ずかしくないの?」
「俺がと一緒にいたいんだ」

それを聞いたが目元をくしゃりとさせる、昔から変わらない表情で笑った。

「良かった!おれさ、カゲと並んで歩けるように見た目とかに気を遣うようにしたの」
「あぁ。お前は元々眉目秀麗だが、今は前とは比べ物にならないぞ」
「えぇ!?──あはは!告白ならおれからするから待っててよ」
「コ……ッ!?」



何をふざけたことを、と言うつもりが、つい口が滑って

「……期待している」

なんて言ってしまったものだから、ダークシャドウが出て来て「ウゲェ」と声をあげたのだ。



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