「俺の個性は、こう、手で丸を作ってその中に収まるものの動きを大幅に減速させる。目を細めれば細めるほど範囲と威力をあげられる。ただ丸の中から抜け出したり、10秒経つと解除される」
「へぇ」
「だからあなたたちみたいな早足のヒーローの補助が一番適してるんだ」
は、父親の事務所にサイドキックとして入社した飯田天晴の教育係だった。教育係と言っても、大学卒業と共に事務所入りしたため年齢は違えど実務経験は2年とない。教育係というがその実に経験を積ませるためだろう。父親から期待されている人物というのは見ていれば分かる。
「飯田…テンセイだっけ。ヒーロー名は?」
「インゲニウムです」
「えっ」
「え?」
「あぁいや。うん。……教育係なんて大層な役割だけど、俺としては歳の近い友人のつもりでいたからさ。敬語ではなく普通に話してほしいなぁなんて」
「そう言うなら頑張ります……あ」
「ははッ!まぁ無理せずに。よろしく、天晴」
「えぇ、よろしく」
「そんな事があってからほんの数年で事務所設立。俺の想像よりずっと早いぞターボヒーロー」
「そうか!それは光栄だな」
二人で飲む時はいつもが下手に座る。最初は天晴も張り合って下手に座ろうとしていたがどうも上手く阻まれてしまい、今ではもう諦めて上座に座る。きっとはもう無意識なのだろうが、天晴にとっては二人の間にあるこの暗黙のルールが好きだった。
運ばれてきたビールを持ち、お疲れ、とグラスを鳴らす。
「ここ最近はずっとお前の腰巾着をしてたからなぁ。これからどうしよう」
「その言い方は好きじゃない」
「周りから見たら腰巾着どころか金魚のふんだって!」
「………」
「んー?急に黙るなよ」
「そう言われたら、お前を俺の事務所に誘いづらくなる」
「へっ?」
真剣な顔の天晴には釣り合わないとぼけた顔をしたまま、少し声を張ってなんて?と問う。
「廊下を酔っ払いが通ってて聞こえなかった」
「………お前、ほんとうにさぁ…!」
「なんだよ!もう一回言えって!」
「またの機会にするよ!」
「えぇ!?」
結局その日は言い出せなくて、後日、仕事帰りの西日の差した事務所で言い直したところ「まるで告白だな」と驚かれた。つい蹴りが出た。
「兄さん!お仕事お疲れさま!」
「おぉ天哉、わざわざ迎えに来てくれたのかっ」
パタパタと駆けてきた天哉を抱き上げ笑い合う二人を見ての頬もほころぶ。この二人の喜ぶ姿が本当に好きだった。そんなの事を当然天哉が疎ましく思うわけもなく。
「君もお疲れさま!」
「ありがとう天哉〜」
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられのをぎゅっと目をつぶりこらえていた天哉がパチリと目を開き天晴の肝を冷やすことを言った。
「さっき父さんが君をサーナイトアイの元にすいせんしようかと話していた!君はゆうしゅうだからな!」
「それ、は、本当か、天哉」
たどたどしく聞き返す天晴の不自然さには気づいていないらしく、天哉はいまだ興奮気味に推薦の話を続けている。
「サーナイトアイだぞ!あの人の元で接近戦の方法を学んだら君は間違いなく最強だ!」
「あはは。天哉が言うなら間違いないな」
「……」
自力で天晴の腕から抜け出して二人の足元をくるくる回る天哉に目線を合わせるべくしゃがんだは、ニッと大きく笑って言った。
「ありがたいけど、親父さんには断らなきゃな」
「……?」
「俺は一生インゲニウムについていくよ」
「な!?それ、は……」
「俺は本気だから」
すくりと立ち上がったの真っ直ぐな目が天晴向けられる。自分から声をかけておきながらの返答に臆してしまう。だって、サーナイトアイの元に行けるチャンスを自分が潰してしまうなんて。
それに今の言葉はそれこそ『まるで告白』じゃないか。
「うん!二人が組めば街の安全は確実に守られるな」
「!?そういうことじゃなくてだな天哉……いや、まぁそうだけど……」
「ん?何かまちがったことを言ったか?」
「ははッ、間違ってないよなぁ天哉」
「そうだ!兄さんとさんは最強だからな!」
「まで……からかうな」
***
「天晴。ヒーロー引退するのか」
「そりゃ……この足じゃ無理だろ」
ヒーロー殺しステインによる襲撃から幾日か経って、ようやく意識がはっきりしてきた。身内以外のお見舞いも来られるようになった初日の朝に、病室を訪れたのはマスクをつけたで、その顔は笑っているのに心なしか暗く見えた。
「『一生インゲニウムについていく』。約束を違えることになるな」
「あぁ………」
その後の沈黙があまりにも痛々しかった。空気を変えようにも息を吸うことすら苦しい現状ではいつもみたいな軽口もきけやしない。一定のペースでなる甲高い機械音を意味もなく数えながらが動き出すのを待つしかなかった。
「ちょっと、天哉の所に行ってくる」
「……あぁ、悪いが、あいつの事、見て、やってくれよ。いまだに動揺してるみたいで」
「じゃあ、また来るよ」
嘘だと言いたかったが我慢した。どうせ声はでないし、こんなのは八つ当たりでしかないとわかってる。
「ぅ、ぐ……〜〜、」
抑えきれない嗚咽が、涙が、こぼれ落ちるたびに酸素マスクを意識させる。自分は怪我人で、それも治らない。ヒーローでは、なくなった。
『早足のヒーローの補助が一番適してるんだ』
足の早いヒーローでなくなった今、が横にいる理由はない。現役復帰は不可能だろうと悟った時と同じくらいに──それどころか弟の横で笑うを想像するとそれ以上に──胸が痛んで涙が止まらない。
二人三脚を許して
「戻ったぜー、って、あ?どうした天晴」
「……!?、、なんで、天哉のとこに行ったんじゃ」
「行ったよ。下の階の病室にいんの。知らね?あいつ……まぁ本人も色々目が覚めたようだからこの話は元気になってからにして」
「……なら、なんで、戻ってきたんだ。病室にいるなら側に、」
「俺はあの時『一生インゲニウムについていく』って言っちまったんだよな」
「だ、っから天哉の、とこに行くんだろ……ッ」
「馬鹿だなぁ。お前がインゲニウムの名を譲っちまったんだろ」
「……っ?」
「だから俺が一生ついていく相手は、インゲニウムではなく天晴ですって宣言しに行ったんだよ」
「……!」
「はは、お前が人前で泣くなんて珍しいな」
「……誰のせいだっ」
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