「おーいエッジショット君~ご飯食べに行こうぜー」
「…………」
「なぁエッジショット、今度の休みいつ?」
「…………」
「よっ!最近の調子はどうだエッジショット!」
「…………」
「何だ!お前たちはプライベートでも仲が良かったと思ったが気のせいか?」
「いやぁ聞いてよミルコ!前まで普通に飯とかも行ってたのに、今じゃ仕事も組んでもらえねぇの!なぁ俺何かしたっけ?」
ふらふらとミルコへ近付いて、あまつさえ肩を組んでいる。近いんだよ、距離がッ
間に入って押し退けてやりたいが、そんな事をしたらこの現状に至る経緯がすぐにバレてしまうだろう。
どこで道を誤ったのか、俺はこいつによからぬ情を抱いてしまったらしい。
「仕方ない私が話を聞いてやるよ」
「ありがとうミルコ。そういうとこ大好きだ」
なるべく視界に入らぬようしても、端の方に肩を抱き合い談笑する姿が写りこむ。今まで何度と見てきたはずだ。のパーソナルスペースが狭いことなど知っているのに何故今更こんなことで心掻き乱されるのか、いや、皆まで言うな。
「ある日から急に紙原が覆面をとってくれなくなって。俺の前では常にエッジショットなんだ」
「ややこしいが言いたい事はわかるぞ。『プライベートでは付き合いたくない』というメッセージじゃないか?何かしたんだろ!」
「やっぱ俺が悪い前提で話が進むんだな……」
この二人、目の前に本人がいることを分かってて話しているのだろうか。だとしたらよほどの阿呆か嫌がらせだ。
「用がないなら俺は行く」
俺が場を離れた後の二人については分からないが、少なくともが俺の跡を追っては来ていない事が分かった。
「前、カメラが回ってる時に手柄横取りしたの怒ってんのかな」
「エッジショット特集だったのに3分の1はお前が写ってたもんな!」
確かに切っ掛けは別ヴィラン討伐中だった俺の個性にエッジショットから逃げてきたヴィランが巻き込まれたことだが、元々秘密主義なエッジショット一人では尺が足りないからとNHAが嬉々として俺ら二人の交流シーンを採用した。評価は賛否両論、どちらの意味でも炎上した。
「まぁあいつは『思いがけず早々に撮影が終わった』と言ってたから問題ないだろ」
「じゃああれか、俺がおにぎり持たせてやったとき、具がないから男梅入れたことをまだ根に持ってるのかも」
「なんだお前ら同棲までしてたのか」
「いや、家賃払えず追い出された俺が居着いただけ」
正確には俺の住んでた荘が取り壊しになって高級ビジネスホテルに建て替えられるのだが、貧困ヒーローには到底払い続けられないと愚痴をこぼしたところ、紙原が仮住まいにしてもいいと家の鍵を渡したのだ。
二人での暮らしがあまりに円滑に進むからつい長居してしまっただけのこと。何かの言い訳のようにそんな事を口にしてはミルコにはいはいと笑われた。
「それも違うだろうな、あとは何かないのか?」
「じゃああれだやっぱ。…………シンリンカムイ達と組んでからだ」
***
「ふぅ……」
マンションの屋上で一人きり。ようやく頬の熱が冷めた気がして口布を下ろす。秋風が嫌な熱を持つ頬を撫で付け冷静になれていないことを自覚させ通りすぎていく。
単独任務に当たる事の多い俺達はタイミングが合えば連携するなど、それなりに交流のある同僚としてやってきた。
『紙原、大丈夫か』
ヴィランからの不意打ちをもろに食らい、そのまま繁華街のビルに叩きつけられようとした時、瞬時に飛んできて助けられた瞬間から同僚はヒーローになり、抱き止められた時の事を思い出してはそのヒーローに慕情を抱いくようになってしまってからはもはや、同僚としてもヒーローとしても見られない。
「あらぁ、エッジショットさん」
「Mt.レディか」
「今日もお一人なんですね」
急ぎ口布を覆う。また顔が見られなかったと顔を膨らませるがそう易々と晒すわけがないだろう。
「それにしても薄情ですよねぇ」
「何の話だ」
「あなたですよ、私やシンリンカムイさんと組む機会が増えたからって前の相棒をそんなにあっさり切り捨てなくても」
「そんなつもりは断じてない!…………が、そう、見えるのか?」
屋上にやってきたMt.レディが言うには自分だけでなくネットでもそんな声が上がっているとか。何故か賛否両論だが確かに、わりと目につく。
「……すまない。俺はもう行く」
音速よりも早く家に戻れても、嫌な予感に気付くのは遅かった。
「…………鍵」
鍵を閉めたあと窓から器用に投げ込まれたらしい。『世話になった!』といつもの汚い字で書かれたメモの横には俺が渡した合鍵が置かれている。奴の私物もほとんどなくなっていた。
「……っ、」
こうも胸が締め付けられるのなら、いっそお前のせいだとぶつけてやればよかった。それくらいならまだ、間に合うだろうか。
***
紙原の家を出たはいいが、特に行く宛もない。まずは住みかを決めなくてはならない。人間命の危機に瀕すると信じられないくらい行動的になるらしい。現に貧困ヒーローも自身の生活のため見回りもヴィラン退治も今までの比じゃない程に頑張っている。
「よっしゃ!頑張れ俺、脱マン喫生活……!」
もはやアルバイトのお兄ちゃんと仲良くなりだした事に尚更危機感を煽られ、ここ数日は毎日外を駆け回っている。そんな忙しい日々だから、頭から抜けていたのだ。
「あれ?もしかして紙原?」
「そうだ、もう忘れたのか」
「いやいや……久しぶりだからついな!」
しばらく見なかったプライベートな姿を見られた事に浮かれ、両肩に手を置いた。するとみるみるうちに顔を赤くして怒るから慌ててどかせば今度は表情が怒っていく。どうしたんだこいつ。
「何故急に姿を消した」
「俺に聞くより自分の胸に手を置いて考えてみろよ」
「~~っ、俺は別に、お前を捨てたわけじゃない!」
「捨て……何の話だ?」
シラを切るな、分かってるんだと喚く紙原は更に顔を赤くして逆鱗状態なのに、まるで自分が捨てられたかのような目でこっちを睨む。というか泣いて……?まさかなぁ。
「し、仕事の疲れが溜まってるのか?いつもの二人に相談しづらい事なら俺が聞いてやるから」
「い、つもの二人……ッ」
「???」
「やはり、俺がお前を、突き放したと思っているな……!」
意味のわからない言葉を並べてふるふると肩を揺らす紙原には何を行っても暖簾に腕押し。まずは話を聞いてもらおうと両頬を掴んで顔を上げさせる、と、いつもの澄ました顔からは想像できないくらい、真っ赤になって泣いていた。
「え……その……お前が口布も外さず、距離を取りたがってたから、俺は……」
被害者面するなと言ってやるつもりだったのに、嗚咽を洩らさないよう一文字に結ばれた口や驚いたままの丸い目を向け涙を流す顔を見たら強くは言えなくなってしまった。
「こんな情けない顔をっ、見られたくなかったんだ……!」
「イデッ」
胸元の頭突きが骨まで響く。ひっぺがそうにも両手が俺の服をぎゅうぎゅう掴んで離してくれそうにない。
「おい紙原───」
「あそこにいるの、ヒーローじゃね?」
「そうか?」
「あのエッジショットとよく一緒にいた、ほら、なんて言ったかな……」
おいおいばか!こんなとこ見られたりしたらこいつの評判に傷がつくだろ!
「紙原っ、人が見てるし早く姿消して帰れ」
「ゔ、ぅ、おい、まだ、話は終わってない、から、な……!」
足からするすると体がほどけて行く姿は何度見ても見とれてしまう。上の空で返事をする姿が気に障ったのか、勢いよく脇腹を殴られそのまま逃げられるというひどい暴君っぷりだ。どうしたんだ今日のあいつ。
「……ん?」
ポケットにはさっきまでなかったはずの固い感触。恐る恐る手を入れると見慣れた鍵が、入っていた。
「いつの間に……」
てんてこまい
お別れの挨拶をしに行った先で、マン喫のバイト君に「やけに嬉しそうッスね」と言われた。
そりゃそうだ!家賃がゼロの居候生活が戻ってくるんだから!
Back