「はー……顔が好き」

なんとなーくギリギリ通過した雄英でなんとなーく過ごしてた時に見つけたのが爆豪だった。普通科の俺では話をするどころか視界に入るのも難しいだろうと諦めてたのだが、ある日転機が訪れた。

「いつもいつも何見てンだ気色悪ィッ!」
「逆ナン…………!」

出会いはそう、いつもの癖で無意識に目で追っていた放課後、突然視界一面にクリーム色の髪が映りこんだと思ったら胸ぐらを掴まれ壁へと押し込まれる。これを壁ドンと言わずになんと言おうか。
しばらく無言で見つめあった後顔の真横で爆破を起こされその場はお流れとなってしまった。俺としてはあんなに間近で顔を拝めたことにその日一日上機嫌だった。

俺の事を認識して頂けたのならそれはもうチャンス到来だろ?それからと言うもの俺は猛アピールを続けとうとう自称友人を名乗れるくらいには距離を詰めた。

そして今日、何度目かのおでかけのお誘いをするのだ!
断られるのは承知の上。それでも誘ったのは勝算かあるからだ。

「俺のバイト先、『お地獄ラーメン』なんだよね」
「……!」
「一日10食限定のラーメン、食べたくね?俺なら手配できる。マジで、ラーメン食いに行くだけでいいから」
「……おい」
「はい」
「一回だけだかんなァ!!!!!」
「ありがとう!!!!!」

え?食べ物で釣って虚しくないのかって?全然!むしろ食べ物に釣られて嫌いな奴と二人で出掛けることにした爆豪のが余程虚し───やべ自分で言ってて虚しくなってきた……


   ***

爆豪にとってはチョロチョロ視界に入ってくる鬱陶しいモブでしかない。だから好きか嫌いかの二択であれば迷うことなく嫌いだが、幻の激辛ラーメンのためとはいえ貴重な休日を使ってやる位には嫌いではなかった。

「おはよう爆豪。わ、その服似合ってんね」
「さっさと行くぞ」

例えばこうやって、待ち合わせ場所には当たり前に先にいて、口を開けば褒めてくるところとか

「爆豪は午後何すんの?俺はここで映画見て帰るんだ。追っかけてるシリーズの最新作でさ。月曜日に学校で感想言うから!」
「いらねぇ」

取り付けた約束はごねたりせずきちんと守るところとか。エトセトラ。嫌いではなかった。

「ん?」
「急に立ち止まんな」
「なぁ爆豪、あいつ……」

耳元に顔を寄せ、いつもの騒がしさからは想像つかない真剣な声につい驚いたが、そんな爆豪をよそにの真剣な目線は、エレベーターを待つ黒いマスクの男に向けられていた。

「知り合いかよ」
「違う。先週、新聞に載ってた放火の被疑者にそっくりだ。見た?」
「新聞なんざ読む暇ねェんだよこっちは。行くぞ」

行くぞ、という爆豪の足はラーメン屋へ昇るエスカレーターではなく、の顔が向けられたエレベーターに進んでいる。

「え?いやでもラーメンは?それに確信があるわけじゃねぇし」
「ハッ、嘘が下手かよ」

鼻で笑う爆豪を見てきょとんとした顔のは、自分が置いていかれている事に気付いて慌てて後を追った。

男の乗ったエレベーターは既に上ってしまっていたが、幸いにも最上階にある展望台への直通エレベーターだった。

「デートスポットに男一人で行くなんてそれだけで怪しいよな」
「おいテメェ……気持ち悪ィ言い方してんじゃねぇ殺すぞ……」
「え?あぁごめん、俺らみたいな!友達同士!でも!行くもんな!」

露骨なアピールがかえって怪しいのだと言ってやろうと思ったがそれこそ墓穴を掘るようなものだとぐっと堪えた。エレベーターはタイミングよくドアを開けた。

「やっぱり……新聞で見たあいつだよ」
「なら今すぐぶっ飛ばす」
「無理だろ。仮免もないのに」
「ンだとオラッ!」
「まずはここの人たちを静かに避難させないと……」
「それはお前がやれ」

え、と文句ありげな声が返ってきたが想定内だ。

「俺は顔が割れてるから目立つようなことしたらかえってパニくんだろ」

わざわざ言われなきゃわかんねェのかという悪態は完全に聞き流され、ただただ爆豪の案に感心していた。じゃあそれで行こうと叩かれた背中の熱を感じながら爆豪もまた不審な男を監視する。

男を追って展望台を半周した辺りだろうか、突然男が踵を返し足早に爆豪へと近寄ってくる。それも確実に、こちらに声をかける気配をさせて。

「甘いんだよなァ……」
「ッ!」

“やられる前に”そう警戒しニトロを溜めた手を構えたのと同時にの叫び声が耳にキンと響く。やめろ?何をだ────






「爆豪ッ!!!!!!」

俺の忠告は間に合わず、爆豪の手のひらから発火された火が着火材となり彼らの周りに火が勢いよく現れた。

「気付くのが遅れた……あいつ、ガスを充満させてたんだ…ッ」

爆豪の安否も気になるが、何よりもまず他の客を逃がし終えた後で良かった。爆豪がこれくらいでどうこうなるわけがないが、しかしあいつには分が悪いだろう。

「爆、ご……ッ!?」

払った煙の向こうで、受け身を取る爆豪と、覆い被さるようにして爆豪を殴る男を見た。




「爆豪ッ!!!!!!」
「うるせェな畜生……」

突然暴発した火によって視界は白い光に包まれ、耳鳴りも止まない。あいつは無事だろうか、必死にの声を辿ろうとするが先に爆豪を掴んだのは元凶である男の太い腕だった。

「ぐっ……!」
「そうそう、爆破は止めた方がいい。火事を大きくするだけだ」

こんな事態に陥る事を全く考えていなかった訳ではない。自分の担任の様に個性を封じるヴィランを相手にしたらどう戦うか位考えていたが、それに対応できるようになるまでまだ少し時間が足りなかった。

「お前の事はテレビで見たぜ。ヒーロー志望。今ここで若い芽を摘んでおこうか」

馬乗りになった男が少しずつ首に回した腕に体重をかけてくる。顔を殴れども動じない男にどうしたらいいのか。どうせこの火だ。今更悪化させたって構わないだろうとも思ったが、先程聞いたの必死の声がストッパーとなり力を抜いた。

「くそが……ッ」

生理的に滲む視界。この男をどうしてやろうか案が浮かばないうちに、頭がドクドクと痛みだしとうとう体の力が抜けていく。



「お前の事は新聞で読んだぜ」

その声を聞くや否やのし掛かっていた重みは消え、呼吸も楽になる。酸素を吸い込んで呼吸をすればするほど煙を吸い込み咳き込んでしまう。悪循環だ。

「こっちだ爆豪!」

あの男はどうしたのか、お前がやったのか、俺に命令すんな、あいつはどうすんだ。色々と言いたいことはあったが、うまく機能しない脳や喉を使うのは諦め力強く掴むの手の感覚だけを追った。

「爆豪、俺を助けてくれよな!」

360度式の展望台。カーブだと言うのに走る速度を落とさないはおもむろに爆豪の腕を力強く握りそして

バリンッ!!!!!!

「ア?」
「頭下げてろ!」

普通のガラスじゃない。厚さ8mmの強化ガラスが二重になってるというじゃないか。普通の人間が蹴りでどうこうできるものじゃない。こいつの個性、身体強化だったんか。
どういうわけか抱きすくめられたの腕の中で一人混乱する爆豪を現実に引き戻したのもまただった。

「爆豪~~!外に出たから後は頼んだ~~~!!」
「俺に命令すんなッ!」

肌が焼けるような熱さはなくなり、今は大量のガラスの破片とともに地面へ落下している。普通科のくせに随分無茶な脱出法を考えたものだ。

「しっかり掴まってろよクソがッ!」
「おう!」

先程までガラスから爆豪を守っていた男が今や体を丸めて爆豪にしがみついている。その事実に気付いたのは無事地面に足をつけてからで。密着した体がとても熱く感じたのは、ずっと火の中にいたからで。


な!


「はー終わらなすぎ」

俺は
この一週間授業の時間以外ずーっと教室に缶詰になって反省文書いてる雄英普通科一年生!
ヴィランと居合わせたとはいえ、無断で個性を使用し、あろうことか器物損害をはたらいたことへのお咎めだ。仕方なくない?火が回ったせいでエレベーター動かなかったんだし。ヒーロー来なかったし?
その結果がこのプリントの束だけで済んだんだって言われたときは大人の闇を感じたね。むしろ他の人たち逃がしたんだから表彰されるべきじゃん?あー爆豪の顔が見たい。
貴重な『一回だけ』のお出掛けは散々なまま終わってしまった。表彰されないことより反省文より何よりそれが悲しい。


そんな一人きりの放課後。閉まっている教室のドアがゴト、と音をたて、曇りガラスの向こうにクリーム色のツンツンした髪が───



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