「て常闇のこと好きなんだよね?」
「ブッフォッ!」
吹き出したココアは八百万の創造によって出されたトレイに押さえられそれほど周囲への被害は出なかったが、いまだみっともなくむせ返るを無視して芦戸は楽しげに指を揺らす。
「ヴッ……急に何を言うんだ芦戸三奈……」
「フルネーム……」
「めっちゃ動揺しとる……」
向かいに座る麗日と耳郎がなんとも不憫だと言いたげな視線を送る。芦戸のコイバナに捕まったらなかなか解放してもらえないのを知っているからだ。
「だってさ、よく常闇の事見てるよね」
「ミテナイヨ」
「見てるよ~!」
どんどん声のボリュームが大きくなるのやめて。そんな願いも声に出さねば伝わらず、(こんの空気読めねぇパッションピンク酸女が…!)と酷い悪態を心の中で唱えていた。口が悪いのである。
「そりゃ、体育祭三位の実力者として参考にしようと見てるかもしれないけど……」
「そうそう、他の生徒そっちのけで見てたり」
「チーム分けの時もすごくそわそわしてたわ」
「“部屋王”を決めるときも顔を赤らめていましたね」
蛙吹と八百万まで会話に加わった今、多勢に無勢、否定し続けるのは無理だと悟ったのか顔を真っ赤にして自白した。
「いや、好きだよ!?普通科から転向できるよう必死に努力するくらいには!」
腹を括った男らしい告白に女性陣からオォ~!と歓声があがる。当の本人は両手で赤くなった顔を扇いで目を細めた。
「お?何の話してたんだ?」
「盛り上がってるな」
「女子会ってやつか……?オイラにも聞かせろよォ……」
風呂上がりの男性陣がほかほかと逆上せて赤くなった頬のまま共有スペースへ流れ込んできた。
「峰田と上鳴だけなら追い返したよ」
「尾白に感謝しな」
親指を下にして見下すと、睨み付ける耳郎を前に一瞬たじろいだものの、二人は尾白の背に隠れぶーぶー文句をいう。
「どうせあれだろ?は爆豪が好きっていう話だろ?」
「ブッフォッ!」
吹き出したココアを今度こそ机にぶちまけて悔しげに拭いた。眉間の皺がすごい。
「ないわぁ……!よりにもよって爆豪はないわ」
「んだとくそモブッ!」
「うるせぇ自分の悪口に敏感かテメェはッ!」
後からロビーへ降りてきた男子の中から目を釣り上げた爆豪が食って掛かる。
「そうやって言い合うとことかそっくりなのにな」
「まぁ……『嫌よ嫌よも』てやつかとも思ったけどね」
男性陣の素直な感想が火に油を注いで口喧嘩はヒートアップ。
「テメェいつまでいんださっさと消えろカス」
「お前が部屋に戻れ。私は次の筆記試験で 優 以上の成績修めないと転向できないんだよ」
「知るかバカ女」
「やめろ!気にしてんだぞ!」
いつも通りの言い争いをBGMに各々が好きにくつろいでいる時だ。二人の間に割って入りそのままエレベーターに向かう彼がを一瞥し口を開いた。
「……なら喋っていないで頭を酷使しろ」
すぐに視線は反らされ、その後一度も振り替えることなく上へ上がっていった。
「怒られた……爆豪のせいだ……」
「お前が好きなのって常闇かよ」
「ありゃ脈なしだなぁ」
興味が失せたと言わんばかりに解散した上鳴たちも、怒られたとへこむも気付いていない。
「彼、自分から女の子に声をかけるなんて滅多にないわよね」
「えぇ。でも、私たちが言うのも野暮ですからねぇ…」
早く気付けばいいのに。
遠巻きに微笑む蛙吹と八百万の言葉は、誰にも聞かれることなく二人の間でふわりと消えた。
天才の見立てによれば
「あら、ちゃん普通科の男の子たちにお昼誘われてる」
「ブッフ、」
「あら、見間違いだったみたい」
けろり、と笑う少女に、常闇は軽く口許を拭いながら訝しげな目を向けた。
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