「よっお疲れ!」
「あら?なんか太ったんじゃない?」
「それが長期の単身赴任から帰って来た友人に真っ先に言うセリフですか?」

ごめんと笑うミッドナイトさんは太るどころか数年前のブロマイドから飛び出してきたかのような変わらないスタイルだったため、悔しいが何も言い返せなかった。相変わらず世の男性を魅了してるなぁ。

「ヘイ!」
「収穫はどう?」
「んー優秀なヒーローには会ったけど、やっぱり教師に向いてるかって言われるとそうでもなかったり……」
「つまり収穫ゼロね」
「辛辣ですなぁミッドナイトさん」
「ヘイヘイヘイ!そろそろ俺への反応を示してくれてもいいんじゃねぇか!」
「おはようプレゼントマイク」

この話の冒頭の「よっ」から今の「ヘイ」までずっとプレゼントマイクがいたのは分かっていたが疲れた時のマイクは体に悪いため触れないでいたのだ。

「こう……マイクの声は頭に響くから弱ってるときには辛いものがある」
「まるで二日酔いみたいな発言ね」
「ひっでぇなそりゃッ!」
「だからうるせぇって」

俺とマイク、それとここにはいないがイレイザーヘッドは元同級生現同期という恐ろしい腐れ縁であり、そのせいかおかげか多少のことでは動じない図太さをお互いに持ち合わせている。
だからうるさいと言った位では全く気にしないし現に今もへらへらと笑っている始末だ。騒がしいがその気楽な様子に救われているという事は本人には黙っておこう。絶対調子乗るし。

「さ、夕飯まだでしょう?食べに行くわよ」
「いいねぇ!二人の復帰祝いだ!」
「“二人”の?俺の他にもスカウトに出てた人がいたのか?」
「いや、あー間違えた!お前だけだわ!スカウトから教師への復帰!」

あからさまに、ドクンと跳ねた。

「そう、本当に?」

マイクの顔がしまったと告げる。
横にいるミッドナイトさんに何かありました?と問うと、顔は平常を装うも心音は正直だ。俺の個性“ステート”を知っているため白旗とばかりにため息をついて「話すよ」と言った。

脳無と呼ばれる複合個性を持ったヴィランと、それを操るヴィラン連合。対峙した教師三人はそれぞれ重傷を負う。敵にワープの個性を持った人物がいたため侵入を許した。
勿論出張中もメディアには目を向けていたから雄英襲撃の件は知っているが、放送されていないだけでここの被害は想像以上に大きかった。

「被害に合ったのは1年A組って聞いた。じゃあ、担任の、消太は……」
「落ち着け
「そうよ、だから言ってるじゃない『復活祝い』って」
「そう、だった。そっか、良かった……」

二人に宥められる程取り乱していたらしい。落ち着いたからと言っても二人は離れようとはせず、頭をグリグリとなで回してきた。恥ずかしさと同時に、なんだかくすぐったい。


   ***

「少し見ない間に随分男前になったなァ」

目の横を指差してやる。言いたいことが伝わったらしく大袈裟に目を逸らされた。

「帰って早々説教か」
「そっちこそおかえりの一言も言ってくれねぇの?」

話に一呼吸おくようにため息をついた消太の片手には生徒の出席簿が握られていて、本当に教師をやっているのかと吹き出してしまう。

「何笑ってんだ」
「いや、今は普通に教師をしているんだと思ってさ。以前は生徒のほとんどを除籍処分にしていたから」
「わざわざそれを言いに来たのか」
「ううん。もう帰るだろ?今日は俺らの復帰祝いをしてくれるって二人がお店を予約してくれたらしくてさ」

どうせ連絡入れても気付かないから捕まえるために直接来たというわけなのさ。得意気な俺を鼻で笑いながらも帰宅準備を進めている。ここで俺を撒かないということは珍しく参加する気があるのだろう。緩む頬を隠すように窓に顔を向けているといつの間にか帰り支度を済ませた消太に置いて行くぞと声をかけられた。


「ニュースで雄英襲撃事件を知ったときはすごく驚いた」

外はすっかり夕焼け色に染まっていて、学校までの並木が揃って赤色を写し出していた。

「昼間、ミッドナイトさん達に事の詳細を聞いて、何やってんだって思った。死にかけた消太にも、駆けつけられなかった自分にも」
「……辛い思いをさせたなら謝る」
「辛くはないよ。生徒を守って負った怪我なら、誇ることはあれど辛くはない」
「……」
「ただ、まぁ、消太が死んだら跡を追うだろうかなとは考えたけど」

横に伸びる影が立ち止まる。下を向いたままの俺は気付かないふりをしてそのまま歩き続けるが、とうとう視界から影が見切れたところで仕方なく後ろを向いた。

「どうした」
「……いや、少し驚いた」
「ふぅん」
「お前は、俺がいなくてものらりくらりと生きてるもんだと思ったが」
「どうだろ。意外とダメかもよ」

こればっかりは実際なってみないと解らないなぁ。でもまぁ、さっきだってあんなに取り乱したんだから、死んだと聞いたらきっと普通の状態じゃあいられない。

「生徒のためにも、生き永らえる道を選んでもらわなきゃ困るよ」

ここで俺のために、なんて言えたらいいのに。


   ***

「……」
「?お店を前にやっぱり止めるとか言うなよ」

角を曲がれば待ち合わせ場所だと言うのに突然足を止めてしまった。今日はよく足を止めるなぁ、なんなんだ。

「待たせてるんだから、早く行かないと」
「もう少し待たせておけ」

時間にルーズなヒーローとはいかがなものかと言いかけてやめたのは何か言いたげな消太と目があったからだ。

「……り」
「ん?」
「おかえり」
「……うん、ただいま」

多分、もしかしたら、他の二人よりも先に言いたかったのかもしれないなんて考えるのは自惚れだろうか。
でもほら、ドクドクと足早になる心音はどれだけ個性を使おうとも俺のもの一つしか聞こえない。

「消太、何で個性発動してんだ」
「うるさい」



ドクドクドク、心臓がうるさいのは俺一人だけじゃなかったりして。



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