「わー、相澤先ー生~~~」
「……」
「露骨に嫌そうな顔しないでください傷つきますー」
何故お前がここに、とは聞くだけ野暮か。
実習中怪我を負った緑谷を見舞う飯田と麗日、個人的な用もあり二人の付き添い人として訪ねた保健室。そこにはリカバリーガールと、薬の仕入れに来たであろう雄英ご贔屓の調剤薬局職員の二人がいた。
というか元生徒が調剤薬局で働いてるとは思わなかったな。今度からは来るタイミングに気を付けよう。
「相変わらず血眼すごいですね。処方箋の内容は目薬ですか?」
「いや、これだ」
へらへらと笑った顔が処方箋を見て鳴りを潜めたところを見るとやはり相当強い痛み止めなのだろう。既に目で訴えている。
「……まぁ、雄英襲撃の件はニュースで見ましたし、むしろよくこの薬で済むなぁって感じです」
「先生、こちらの方は……」
「こんにちはっ、僕は調剤師のです。相澤先生の元生徒なんです」
飯田達に向ける表情は見たことのない柔らかなもので、きっと今まで数々の患者達によって培われてきたものなのだろう。
「失礼ながら、さんは何故相澤先生の元で学び、この雄英を巣立ったにも関わらず、ヒーローを目指さなかったのですか?」
「……、」
飯田の率直な質問に息を飲んだのはじゃない。俺の方だった。目の端に呆れ顔を浮かべるリカバリーガールが写ったのをあえて気付かぬふりでやり過ごし、生徒を教室へ返そうとした時だ。
「今やヒーロー飽和時代。確かにヒーローは強くて頼もしいけれど、だからって他の仕事は要らないってわけじゃないでしょ?」
それに僕はこの仕事を誇りに思ってるよ。
そこまで言い切った彼の言葉は、無意識に張った肩の力を抜かせるには十分だった。飯田も麗日も緑谷も、それも一つの考えだと目を輝かせて聞いていた。どこまでも純粋な奴だ。生徒達も、も。
「ほら、手当て済んだらさっさと行け。時間を無駄にするんじゃないよ」
だがその純粋さが仇になることだってある。
「はい、ありがとうございました!」
「失礼しますッ!」
「失礼しましたーっ」
騒々しさは消え、残された俺たちは誰も口を開かずただ重い空気がそこにある。いや、重いと感じているのは俺だけなのかもしれない。は注文書と照らし合わせながら品物を検品している。
生徒達が帰った今俺がここにいる意味もない。早急に部屋を出ようとした時「お茶いれてくるよ」とリカバリーガールに足を止められる。逃げることは許されないらしい。
「先生、もう入院はいいんですね。取り敢えずほっとしました」
「……お前くらいだぞ、いまだにそう呼ぶのは」
「先生は、先生ですから」
“見込みがないと除名にするのは教師として導くことを諦めた結果”だと、“たった数日での決めつけは職務怠慢”だと、直接言ってきた者やそうでない者もいる。そうして生徒が去っていくなか、こいつは今も俺を“先生”と呼ぶのは嫌みかなにかだろうか。
「同級生の言葉を聞いて、そういう考えもあるんだなぁとは思いましたけど、いくら導いたって伸びしろがないんじゃそれまでです」
「特に僕なんかは」
力なく握られた右手に視線を誘導される。俺が彼を見なくなってから、その手は何度使われたのだろうか。どれだけの。
「お前、俺の見舞いに来ていたらしいな」
「……はい」
「使ったのか」
「……」
「答えろ」
「使ってません」
「………使ってません」
繰り返される言葉に生彩はなく、その代わり先ほどまではなかった悔しさが目に浮かんでいた。
「僕が行ったとき、先生はICUに入っていました。ただの調剤師が入ることなんてできないでしょう」
「もし僕が“救済ヒーロー”として活動できていればって、この時ばかりは悔しくなりました」
眉間に皺を寄せたまま力なく笑う顔をみて、自分の行いに疑問が浮かないわけではない。そりゃあ、あの難関を乗り越えようやく掴んだプロヒーローへの道を俺の判断一つで全て無下にしてしまうのはあまりにも酷だと、“平和の象徴”なら絶対にしない事だろう。
「でも、先生の言ったことも、その通りだから」
「……」
「ヒーローだから、なんて理由で、見ず知らずの人に僕の個性は使えない。僕の寿命は渡せない」
「……そうだな」
見込みのない生徒たちは、皆除名処分とした結果、クラス丸ごとなくなった。そのなかで一人、他の生徒とは違う理由で除名となったのがだ。
『その“不死身”の個性を使えば、どんな重体患者だって助けられるだろう』
『はい!だからこそヒーローに───』
『じゃあお前は、他人のために一度も断る事なく寿命を分け与え続けるのか』
『っ、』
『不死身だけど、無敵じゃないよ』
「でもね先生」
我に返った俺に向けられた真っ直ぐな目。思わず布に首を竦める。
「使うべきと判断した時、僕は自分を捨てても個性を使いますよ。たとえそれが合法ではないとしても」
始めて見せる笑顔に迷いはなかった。
「……そうか」
逃げない生徒
俺が除名した生徒の一人は合理性に欠く便利な能力を持っている。
そいつが命をかけたいと思う奴に出会うまでは守ってやるのも、元担任の務めだろう。
だれかに笑いかける彼の姿を想像して感じた胸の違和感は、薬の副作用だろう。
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