話題のニュースを放送する電工掲示板の前でイヤホンを外した。全ての物に喧嘩を売るような目付きで睨む画面には
【逃走中連続殺人犯 刺殺される】
黒で縁取られた赤い文字が大きく告げる。
「犯人の血痕は水で薄められていたとのこと」
「ここ最近の“殺人犯殺し”の仕業と見て捜査を進めています」
「早急の逮捕を求める声と同時に」
「“アンチヒーロー”と犯人の活動を称える声も上がり始めており」
「警察や遺族、有識者は犯人の凶悪性を改めて説いています」
アナウンサーが二人、わざとらしく険しい顔をして台本を読み上げる。
手から流れるのはニトロか、冷や汗か。
どちらにせよ誰にも気付かれまいと固く握って、鋭い目付きを更に尖らせた。
殺し、凶悪性、アンチヒーロー。聞き流すことのできなかった幾つかの言葉をどう処理しようか考えながら立ち尽くすその後ろから、不自然な冷気が流れてくる。
「勝己」
囁くような声。
呼ばれた先に目を向けると、案の定そこにはが一人立ち尽くしていた。
「……」
ため息とともに不安も吐いてしまえたら、らしくない思いを抱えながら彼の立つ裏路地へと歩を進めれば、彼の青く揺れる不安げな表情も幾分かは和らいだ。
「勝己……」
怯えるように伸ばされた青白い手がゆっくりと少年の頬に触れ、そっと触れた部分からじんわりと湯気が立ち込める。
「またやったのか」
知り合いが聞けば驚くような静かな声で問うても、言葉は返されることはなく、かといって憂いを帯びたその眼差しに強く言葉をぶつけることはできなかった。
今の季節は、何だったろうか。
夏休みは終わった。だが今着ている服は半袖のTシャツ1枚だし、天気予報は熱中症への注意喚起を呼び掛けていた。蝉だってまだ沢山鳴いているし、風鈴や打ち水もまだ見かける。それでもこの裏路地だけは、恐ろしくひんやりとしていた。日陰だからという理由で氷柱はできないだろう。
「個性しまえよ」
氷を扱う個性なら同じ学校に轟といういけ好かない男がいる。だがあの男の個性には感じない恐怖と流れる冷や汗が、目の前にいる色素の薄い少年からは、否定できないほど感じるのだ。
「……き、勝己」
我に返ったのを悟られぬよう視線は下げたまま「なんだよ」と返事をする。
「僕、僕ね」
僕はね勝己、その言葉の続きが聞きたくない。手前の耳を塞ぐか男の口を止めるかどちらが早いだろうなどと考える。指先さえ動きはしないくせに。
「僕はね、もうヴィランだよ」
かろうじて見つめたその瞳にはビー玉のような涙をたくさん浮かべ、さらにその奥には、らしくない、不安げな顔をする爆豪自身が映っている。
「僕の行動に、正義はないって」
その言葉全てに生彩がない。
小さい肩を震わせ泣きながら怯えるヴィランに、ヒーローを目指したヴィランに、かける言葉はまだ雄英から教わっていない。
「俺が、プロヒーローになったら」
「うん」
「おれの初仕事の相手はお前だ。だからそれまで───」
それまで、なんだ?
逃げ延びろ?身を隠せ?仮にもヒーローを目指す自分がヴィランの蔵匿に手を染めるのはいかがなものか。言えるわけない。助けられるわけがない。
「わかった」
「──、」
「約束するよ、勝己」
先延ばしにするだけの
もし彼がこのまま世間から逃げ切れたなら、もし彼が雄英に入れていたのなら、もし自分が、ヒーローになるのを諦めたなら。
わき出る“もし”に蓋をして差し出された冷たい小指にそっと絡める。
こんな約束、延命以外のなんと呼ぼうか。
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