俺のお父さんの再婚相手は少しお金持ちらしい。
いや、勿論金目当てで再婚したわけじゃない。普通の、よくある恋愛婚だったらしいし、当時3歳になるかならないかだった俺にとっては今の母がお母さんだ。
話を戻して、母の家系が裕福になった理由。どうやら母の妹さんがエンデヴァーと結婚したかららしい。
強いパパ、みんなのヒーロー、裕福な家庭。誰もが羨む幸せがあるはずなのに、なのにみんな、悲しそうな顔をしてた。



「とどろき、しょうと君?」
「──っ、」

親父に殴られた腹がじくじくと痛む。公園で一人落ち着くのをじっと堪えていると頭上から聞きなれない声がする。

「あぁやっぱり、君が焦凍君かぁ!」

太陽の光を反射するような白いシャツ姿に、家では久しくみない笑顔で、とにかく“眩しい”やつだった。それが俺の幼馴染みで、救世主だった。



いたって普通の学生時代を送ってきた。本当に、特質事項のかけらもないごく普通の学生時代。あぁ、そうでもなかった。
誰もが羨ましがる“イケメン幼馴染み”というオプション付きだ。俺が女子だったら確実に少女漫画が始まってしまう。
そのせいで一部の女子からは体のいいポスト扱いをうけた。ラブレターもバレンタインもたくさん渡されたがどれも俺宛ではない。せめて義理チョコは俺にもくれよ。
中三の時からは身内であることをひた隠しにしていこうと決めたのに、それをカルガモのようについてきては片っ端から「俺たちは従兄弟だ。でも血は繋がってない」と人の家庭事情を暴露してくるからたまったもんじゃない。

それは高校、雄英でも同じだった。

、昼飯行くだろ」
「え、あ、いや……」

なんでここにいるんだよ、と言うより先にクラスメイトの方へ目をやる。
どういうわけかニヤニヤという擬音がよく似合う笑みを浮かべてこちらを見ている。

「行ってきなよー」
「オレらのことは気にしないでさ」
「週に2回しか機会ないんだから~」

いや週に2回も会ってれば十分だろうと突っ込んでもただ笑ってすかされる。
最初は普通科の教室にヒーロー科が来ていると騒いでた友人達も今では俺が食堂に行くのをどこか楽しそうな目で眺めている。お前とは飯食いたくないという意味だろうか、嫌われているのだろうか。だとしたらそれはとても悲しいぞ。

「いっ、てきます……」


   ***

「あぁ、君っ!」
「お疲れ緑谷ー!」

焦凍に引っ張れる形で向かった食堂の席、そこには俺の癒し緑谷出久とチャラい男上鳴と漢切島、あとなんかブドウっぽい子がいた。

「オイラは峰田」
「よろしく峰田」

オイラの横空いてるぜと席を詰めて譲ってくれた。なんだか可愛いしいいやつだ。ありがたく横に座り熱々のカレーうどんを啜っていると、混んでいたのか少し遅れてやってきた焦凍がムッとした顔でこちらを見下ろしている。

「ヒィ!?なんだよ轟ぃ!」
「……峰田、そこ詰めろ」
「分かったよぅ」

そういうと峰田は俺の方にずいと寄ってきた。くそぅ焦凍、ソファーはもう定員オーバーだから諦めて椅子に座れよ、我儘か。焦凍を座らせるべく極限まで寄ってきた峰田が密着してきてうどんを掴む箸が握りづらい。仕方なく左側に座る上鳴の方へ寄ると小さく悲鳴を上げられた。嘘だろ傷つきます。

「峰田、そっちじゃねぇ反対側に詰めろ……」
「落ち着け轟!寒い!寒いから!」
「どっ、どうしたの轟君!?」
「緑谷それ本気で言ってるのか……!?」

いつも思うのだがヒーロー科の人たちはとても賑やかだ。初めて会ったときは焦凍が馴染めるか心配で必死にこいつのPRをしたのだが、今思えば完全に徒労だった。

「焦凍、ただでさえ冷房効いてるのに余計寒い」
「……わりぃ」

拗ねた。背は伸びて声は低くなっても、その拗ねた顔は小さい頃から変わらない。可笑しくなってこっそり笑うといつの間にか俺の右隣に移動した焦凍に笑うなと小突かれた。
ちなみに峰田は半べそをかきながら俺の斜め右の椅子に移動させられていた。可哀想に。


   ***

君、ちょっといい?」
「ん?」

翌日の事だ。一日の授業が終わり帰り支度をしている時、声をかけてきたのは美しい長髪たなびく我がクラスのマドンナだった。普通科にいるのが不思議な位の強い個性とこの美貌、そして恐れおののく包容力。話しかけられたこちらが緊張してしまう。

「あの、一つお願いがあって……」


   ***

「#name2、帰るぞ」

決まってこの曜日は焦凍がクラスまで押し掛ける。クラスの人々は羨望を通り越して同情してくれているのが不幸中の幸いだろうか。少なくとも中学の時のような鋭い視線は受けていない。

「あぁそうだ焦凍、お前に話があるんだって」
「お前が?」
「いや違うよ。まぁとにかく、靴履き替えたら中庭に来てくれ」

今の言葉に後ろにいた他のA組連中は何かを察したらしく「下駄箱で待ってるから!」と声をかけていた。さて、約束は取り付けたのでマドンナに知らせてこよう。



結果から言うと、マドンナは泣きそうなのを必死に堪えて、機会をくれてありがとうと俺に礼を言った。
怒らないでください、彼はとても真摯に対応してくれました。
そう言われる俺はよっぽど顔に出ていたのだろう。一緒に待機していたヒーロー科の人たちに止められるのも聞かず、ただひたすら中庭へと向かう。
そこには何を考えているのか、少し俯いたまま立ち尽くす焦凍がいて、俺が声を上げ名前を呼ぶと何事もなかったようにカバンを持ち直し「帰るか」と呟いたのだ。


「焦凍の臆病者」
「は?」
「人の愛にビビりすぎだ」

そう言いながらも俺は彼の目を、いや、彼の火傷跡を見ることは出来ず、真っ直ぐにこちらを向くその足を見ていた。

「昔のことを、気にしてるのかもしれないけどさ」

「純粋な好意や愛情が自分に向けられることに気付いてやれよ」

顔は自然と、彼の目を見ていた。
言えた。言えたのだ。

「なぁ、それ……」

顔にはでないが、ちょっと怒ってる。こうした感情の変化に敏感なのは幼馴染みの特権だろう。なので俺は凍らされる前にガードを張れるよう身構えることができるのだ。ふふん。
一歩、また一歩とこちらへ歩み寄ってくる。足元か、はたまた堂々と正面からか。どちらにせよ焦凍の氷を防げるように構えていたのだが───

「お前が言うのか?」
「へ?」

轟焦凍は個性を発動させなかった。その代わりに構えた俺の右手を握ってそういうのだ。『お前が言うのか』?

「……と言うと?」
「………」

何も答えない。色の異なる左右の目はキッとこちらを睨んでるし、なんでそんな仏頂面なんだ。

「……」

掴んだ手をするりと撫でてきたかと思うと踵を返して下駄箱の方へ戻ってしまった。この間ずっと無言である。

「今のは、が悪いよな」
「俺もそう思う」

上鳴や切島その他名前の分からないヒーロー科の奴らに呆れ顔を浮かべられるの意味が分からない。



「あ、君!」
「どうしたの緑谷」
「今すれ違った轟君、顔が赤かったんだけど、熱があるかもしれないから帰り付き添ってあげてくれる?」

この発言に呆れた顔は緑谷に向けられたが、俺と緑谷だけが何のこっちゃいと首をかしげた。



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