おれ/エース
「なぁ~~!」

来た、エースだ。
俺がこの白鯨の航海士見習いとして乗艦する少し前からいるこいつは勝手に俺の事を後輩、というか弟認定しては兄貴ぶって世話を焼いてくる。変な肉を強引に皿に入れられたり僻地への視察のお共にされたりと、どれも俺にとってはありがた迷惑でしかない。更に言えば俺の方が一つ年上なのだから弟と言うのも変な話だ。

『ここではみんながオヤジの息子。だから息子同士では兄弟ってわけよい』

俺の文句も一番隊隊長に言わせればこうだ。迷惑だから止めさせてくれと訴えたのに、自分で言えと言われた。それが出来るなら最初から相談などしてない。

!またここにいたのか」
「あぁ、まぁね。どうした?」
「なぁ今日の夕飯は海獣ステーキだってよ!ちゃんとお前の分も確保しとくから安心しろよ!」
「頼もしいな」

こいつは何をしてても楽しそうで、いつも浮かれた様子で笑ってるから、俺の発言のせいで万が一にでも笑顔が消えたらなんて想像したらつい何も言えなくなる。

「よぉ、どうしたんだ。なんだかぼんやりしてよォ」
「んん?何でもないよ」

はっとしてまた体に力をいれる。頬の筋肉を持ち上げて笑って見せれば単純なエースはころりと騙されてまた笑った。

「なぁ、今日はいつ頃まで見張り番なんだ?」
「あー……今日はちょっと遊べないなぁ……」

誘いを断ろうとしたタイミングで交代が上ってくる。なんて間の悪い……日頃の行いを改めるべきだろうか。

「なんだよつまんねー嘘つきやがって!ほら行こうぜ!」
「あぁ……おう……」

いつもなら心配になるほど熱いエースの手も今日はそこまででない気がするのはつまり俺が今、風邪引いてるからだ。朝起きた時から体の異変に気付くくらいには体調悪いんだが、仕事はサボるわけに行かないからと必死の思いで見張り台まで登っていたと言うのに。これからエースに振り回される分の体力など絶対ない。かと言ってこの手を振りほどいて自室に引き返す勇気はもっとない。マルコ隊長に言われた臆病者の三文字が頭と心にガンガン突き刺さる~……

「あ?、お前大丈夫か?」
「大丈夫。この痛みは的を得ているから感じるもので……」
「何言ってんだそんなふらふらして───おいッ!」


   ***

瞼が持ち上がり、体が横たわってる所からして俺は寝ていたのだろう。それも頭痛が収まるくらいにはぐっすりと。それは分かる。しかし何故エースと同衾してるのかは謎だ。しかも体の半分は布団から落ちてるし。

「……」

目元の腫れも相まって弱々しく見えるエースに毛布をかけてやって、起こさぬようにゆっくりと立ち上がる。食事に顔突っ込ませても死んだように寝てる奴だからそこまで気を遣う必要はなさそうだが、つい。

「起きたのかよい」
「声でかい」

むっと眉を潜める俺を見てにやりと笑う一番隊隊長こと不死鳥マルコはこういうときばかり船医者らしい口調で「ただの流行り風邪だ」と告げた。

「ふーんそう」
「ふーんて」
「まぁそうだろうなぁて思ってたし」
「エースはそうは思ってないみたいだよい」
「えぇ?」

曰く、エースの目の前でプッツリ気を失ったばかりに俺は混乱したエースに担がれマルコのもとへ投げ込まれたらしい。もう絶対クルー達にからかわれるやつじゃんそれ……

「『が死んじまった!』と泣きついて来てよ」
「良かった。俺よりこいつに白羽の矢が立ちそうだな 」
「ん?」
「いや、こっちの話だ。世話かけたな。じゃあ俺は自室で休むから」
「おいおい、こいつはどうするんだよい」

置いていくなよ、とはまるで荷物のような言われようだな。

「適当なこと言って俺の部屋には来ないようにしてくれないか?ゆっくり療養したいから」
「お前も案外ひでぇ奴だよい」

マルコには笑って答えて自室に戻る。
俺は優しい奴だよ。さっさと体調整えて思う存分エースと遊んでやるつもりなんだから。
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