おれ/スモーカー
「しばらく俺に近付かないでくれ」
「……あァ゛?」
こわ、スゲェ凄んでくるじゃん。
いやいやだからと言って撤回しないけれども。
「今はお前に近付かれると困るんだ。だから仕事に関する話はたしぎちゃんを介するか後日にしてくれ」
「何でテメェの指図を受けなきゃならねェんだ」
「指図じゃなくてお願いだよ、ちょっ、マジ勘弁、近寄らないで」
お願いも無視して近寄ってくるんだから絶対スモーカーが加害者のはずなのに何でそんな傷つきましたみたいな顔すんだよ!やめろ!
「言っとくけどお前は何も悪くないからな?スモーカー。だから本当ッ、気にしないでッ」
「だったら理由の一つでも言ったらどうなんだ……!」
「今日はやけに突っ掛かってくるじゃん」
「テメェが訳のわかんねぇ事を言い出すからだ!」
「だから近付くなっゴホッ!ゴホッ!ッコ、ヒュッ…!ゴホッ!」
あぁ畜生、急に近付くからだ。お前の葉巻や能力の煙が喉を刺激して咳が止まらないんだ、って言いたいのに。酸素を吐いては吸って、また噎せて。
悪循環に陥ってしまい、なんとか煙から距離を取ろうと後ずさってそのまま尻餅をついた。
最悪だろ。醜態晒しすぎてこのまま酸欠で死にてぇ。顔上げられねぇ。
「……おい、しっかりしろ」
「一思いに殺してくれ」
酸欠になりかけた俺を見かねたのか数歩距離をとったスモーカーが身を屈めて声をかける。そういう、分かりづらいとこで優しいよな。
「いつからだ」
「え、何が?咳?」
「お前の咳がひどいのはいつも熱が下がった後だ」
「うわぁよくそんな事知ってるなァ。付き合いの長さか俺の事そんなに好きなのか」
と、くだらない冗談は好かないと言った様子で睨みをきかせる顔なんか完全に海賊なんだよなぁ。それでもそんな恐ろしい顔だって、どうでもいい相手には向けられない事を知っている以上怖いなんて思うことはないんだけど。
「にやついてんじゃねェよ」
「あぁはいはい。でももう一週間も前のことだから。薬飲んでりゃ辛くもねぇし」
「……」
確かにあの時はしんどかったなぁ。自分の仕事に能無し上官のカバー。遠征部隊への定期連絡エトセトラ。スモーカーは本部を離れてたから無条件で甘えられる奴がいなかったのも辛かった。勿論そんな愚痴を吐くつもりはない。全て体調管理を怠った俺に原因があるのだ。
「咳だってあと二三日すりゃ止まるだろ、だからそれまで、けほっお前には近付けないからよろしく」
じゃあまだ仕事が残ってるからと踵を返した足が前へ進まない。それどころか地面から離れてる気さえするし、説明のしがたい何かに腹の辺りを掴まれて身動きがとれない。
「なぁ今遊んでる場合じゃないんだってけほっまだ仕事半分も終わってなくて」
「んなもんお前の馬鹿上司にやらせとけ」
「あの人に書類仕事任せたらかえって二度手間になる」
「……ハァァ」
そんなダイナミックため息つかなくても……まぁとにかく俺が呑気にしてられないことが分かったのか、スモーカーは俺を執務室まで運び、何故か向かい合って座るかたちになった。
「何故スモーカーまでここに?」
「手伝ってやるから半休でもとって休んでろ」
「うぅ、申し訳ねェ……今度酒でも奢らせてくれ」
「安月給にたかる気はねェが、飲みには付き合ってやる」
受けた恩はきちんと返したいのにスモーカーはいつもこうだ。さすがG-5の荒くれものに慕われるだけのことはある。本当に優しい奴だよ。
俺なら下心でもない限り無償の優しさは振り撒かないけどなァ。
「おい」
「はいよ」
「再来月にはお前をうちに引っこ抜くから支度しておけよ」
「……はぁ」
なるほどこれが狙い、か?
何にせよこれで恩返しができる。問題はブラック上司の引き継ぎが、上手く行くかどうかだなぁ。
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