おれ/タシギ
俺が風邪をひいた時、やけに揚々として部屋に向かう者が一人いる。
たしぎだ。
いつものおどおどした態度はどこへやらで、片手に桶、片手にりんごを持って部屋へと入ってきた。
汗かいたまま着替えてないから汗くさいだろうに、少しも嫌な顔を見せずそれどころか見間違いでなければ楽しそうな顔をしてベッドの横に椅子をおき腰かける。

さん、大丈夫ですか!?」
「声でか……いやほんと今キツイから出てってく───」
「わ!すごい汗!私濡れタオル持ってきたのでこれで拭いてくださいね!私は後ろでりんご向いてますからお気になさらず!」

お気になさるわそんなん。
だってほら、いつもは俺なりに精一杯格好つけてる相手にこんな弱々しい姿見られるなんて情けなさ過ぎるじゃないか、俺のちっぽけな矜持も布団かぶって出てこれないよ。

「たしぎ……悪いけど出てってくれ……移すぞ……」
「こんな時まで私の心配をなさるのですか?今はご自身の体調を気遣ってください」
「いや、そうじゃなくて……」

これ以上醜態を晒す前に出ていってほしいんだけど。こうも喜びの表情を全面に出されるとなんか言いづらい。

「はい。りんご、すりおろしたので食べられるだけ食べてください」
「わ、嬉しいー……ありがとうたしぎぃ」

すりりんごとはありがたい。何かを噛むのもかったるいくらいに力が出ず喉を通過させるのは困難なくらい扁桃腺が腫れているのだ。すりりんご、万歳。

「…………」
「……ん、どうした?」
「あっ、いえ!普段頼りっぱなしのさんのお世話ができるのって、珍しいなぁと思って」
「頼りっぱなしって……俺たしぎに何かしてあげた事なんかそうないだろ……」
「ご自身で気付いてないだけで色々助けてもらってます。今日はその恩返しを!」
「何とも甲斐甲斐しい……もしかして、俺に惚れてるの?」

なーんて。熱に浮かされた戯言だと流してもらおうと思った途端、濡れタオルが床にべちゃりと落ちる音がした。

「え、たし……」

怒って、いるのだろう。俺に負けじと顔を赤くしたたしぎはそのままくるりと背を向けて部屋から出ていった。なんだ、最初からこう言えば良かったのか。
あー……、体がダルい。
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