あいつ/ドレーク
「それでなぁ、そいつ何て言ったと思う?」
「……あぁ」
「今日めっちゃ雨降ってるな」
「……あぁ」
「俺、お前のことが好きなんだ」
「……あぁ」

ドレークお前……自分で振っといてなんだが傷つくぜおい。

「ドレーク、お前今日はもう帰れ。邪魔だ」
「……あぁ…………は?」
「ようやく我に帰ったかバカめ」

こちらを見下ろすドレークの顔がいつもと違うことは今朝からずっと唱えている。本人は気にも止めず流し続けているがな。

「ドレーク、やせ我慢もいい加減にしろよ。その状態でいられたって邪魔なんだ」
「……どういう意味だ」

どういう意味だも何も。それだけ赤い顔で目を潤ませているのにいつまで誤魔化し続けるつもりなんだこいつ。少将なんだから自分の休暇くらい簡単にとれるだろう。

「まぁ部下への示しがつかなくなるから休みたくないって気持ちは分からないでもないが、いや、むしろ上司が休まないと部下も休みを取りづらいだろ。お前が率先して休みを取る必要が───」
「待て、さっきから何故休みを取らせたがるんだ」
「………………ん?」


   ***

本人が怒号をあげて反抗するのを華麗に無視して俵担ぎをし来た道を折り返す。空いた両腕で俺の背中をぽかぽか殴っているが、体調の悪いドレークの攻撃などちっとも痛くはない。むしろ力のなさが症状を表しているようで心配になる。
騒ぐドレークのおかげで人の通る廊下もどこかの海のようにふたつに分かれ道ができた。そのままこいつの部屋に直行……したいのだが流石に何階もあがるのは難しいし部屋のどこに何があるか分からないから俺の部屋へ担ぎ込んだ。廊下ですれ違った別の同期にお持ち帰りかと言われたが断じて違う。今回は。

「おら、これ咥えてろ」
「ん……」
「あとは……とにかく水分だな。冷蔵庫の上段に入ってるのは好きに飲んでいいから何か食えそうか?あ、測定終わったな」

体温計を口から離した時についた唾液が恥ずかしいらしく顔を下げてる姿が超可愛い。熱で赤くなった顔が余計に可愛い。……ていかんいかん。今はこの自覚のない病人の看護をしなくては。

「……
「ん?どうしたドレーク」
「お前……さっきおれに何をした……」
「何って、体温計ったんだよ。すごい熱だぞ。寝てろ」

即興で作った氷嚢だが無いよりはいいだろう。もはや計るまでもないくらいに熱くなった額にはかなり冷たかったのか、僅かに肩を震わせたドレークが何か言いたげな目でこちらを見上げる。

「どうした?」
「体温も、氷も、やたら傍にいるのも、お前の故郷の風習なのか?」
「は?いや、風邪ひいた時は普通───」

口をつぐんだのはドレークが前に話してくれた海軍入隊のきっかけを思い出したからだ。一体何年間親から“そう”扱われてきたのかは分からないが、今言えるのは俺の当たり前がドレークには通用しないということ。

「そんなの、元気になってから教えてやるよ」

熱のせいで潤んだ瞳が少しだけ俺を睨み付けたが、食って掛かる元気もないらしく顔を背けた。

「あー……、ドレーク、何か食えそうか?簡単なお粥くらいなら作れるけど、それか腹は普通に減ってる?」
「いらない」
「そっか。じゃあ何かあったらすぐ携帯電伝虫に連絡しろよ」

部下には連絡しておいたが、一旦戻って正式に二人分の休暇申請を取りに行こう。立ち上がろうとした時に掠れた声を拾ってすぐ腰を下ろす。いつの間にかこちらに顔を向けたドレークが弱々しく睨んで何か言ってる。

「悪ィ聞こえなかった」
「……そうやって病人を甘やかすのも、故郷の風習か?」
「別に。ただ風邪ひいた時は心細くなるだろ。だから何でも言ってくれよ」

言った方もこそばゆいんだから言われた方など堪らないだろう。しばらく黙っていたドレークが

「仕事に戻るのか……?」

と笑った弱々しくも分かりづらいわがままを言ったのを聞いて、俺はこれからずっとこいつを甘やかしていきてぇなぁと思ってたんだ、この時は。
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