見渡す限りの海を嫌に思うことはないが、やはり賑やかな灯りのともる島を見つけると気分もあがるというものだ。この海賊船もその例に漏れず、見張り台から望遠鏡を覗くウソップは遠くに見える大きな島に歓喜の声をあげた。
「おおい!島が見えるぞ〜!」
ここ数日青色ばかり見ていたからか、ショッピングモールのカラフルな屋根や物珍しい置物に守銭奴のナミも財布の紐が緩んだらしい。一人ひとりにお小遣いを渡し放牧を決めた。
「いい?今渡したお金の範囲内で遊んでよ。特にルフィ、お金使い切って泣きついても知らないからね。明日の夕方までの3食分、そのお金でやりくりすること」
「分かったから早く行こうよぉさっきからいい匂いがしてよぉ」
「本当に分かってるのかしら」
「まぁまぁ。ルフィ、もしお会計で足りなくなったら僕に連絡するんだよ。食い逃げなんて真似はしてはいけないよ」
ルフィを睨みつけていたナミの目が今度は
に向けられた。矛先が自分に向けられた事を感じ取った
はいつもの穏やかな笑みを浮かべ対応する。
「そうやってルフィを甘やかすんだから」
「いやぁ。僕の物欲なんて大したものではないんだし、金は天下の回りものと言うじゃない」
「ルフィの腹の中に消えるくらいなら貯蓄していたほうがずっといいわ」
「あらぁ」
しょんぼりと眉を下げたルフィと
が顔を見合わせ、ウソップとチョッパーはどこからか持ってきた島の観光案内マップに丸をつけていく。サンジは冷蔵庫の中身を確認し、キッチンから戻る際に女性陣向けのティーセットを運んで来た。そんな騒がしい様子を耳にしながら甲板でうたた寝をする。これが今の日常だった。ゾロにとってこれは何でもない、平和な日常なのである。
「それじゃあ各々騒ぎだけは起こさないでよね!」
おぉ!と船員たちの興奮した様子を微笑ましく眺める
は優しい笑みを浮かべたまま船員たちを見送り、最後に甲板に残るゾロに目を向け「君はいいの?」と声をかける。
「特に用はねぇ」
「そっか」
簡単な会話をした後、デッキを磨く音が聞こえ始め、ロープを解く音や海賊旗を下ろす音が聞こえる。誰もいなくなったのをいいことに、船を綺麗にするのが
のいつもの行いだ。皆でやればいいと言われても『居候なんだからこれくらい』と笑って流すばかりで聞き入れる様子もないため好きにさせることにした。船の上に余計な物が置かれなくなったのはその頃からか。
「ゾロ、起きてる?」
「あ?」
「お昼ご飯キッチンに置いておいたから好きな時にどうぞ」
「おぉ」
それだけ言い残して
はまたにっこり笑って船の中へ戻っていく。読書を好むと言っていた。聞けば答えるが聞かないと口を開かないような男が饒舌に語っていたので覚えていた。それも幼子が好むようなおとぎ話についてだったから尚更。
「また『お供を連れた鬼退治』の話読んでんのか」
「ゾロ覚えててくれたの?」
「鬼が出たんでな」
「そっかぁ。あれね、少し地元の絵本と似ててね。といっても僕が知っているのは退治する子は桃から生まれるんだけど」
「そりゃまた奇天烈だな」
「ふふ、そうだよねぇ」
似ているけどやっぱり違うよね。
そう呟いたのを最後に今度こそ船内へ入っていくと、夜にルフィ達が大量のごちそうを抱えて戻ってくるまで船は静かなものだった。
「
〜〜〜!」
「あ、ルフィにウソップ、チョッパー!おかえり」
「なぁ、今更言うのも何だが本当に使っちまって良かったのかよ?」
「勿論。残しておいたって勿体ないし、楽しめる人が使わないと」
「……」
「むしろ気を使わせてごめんね、こんなにいっぱいのお土産」
「なァ
これ食ってみろよ!うっめえぞ!」
「ルフィがここまでつまみ食いするの我慢したんだぞ!」
「少し食ってただろ」
「ふふ、ありがとう。ゾロも起こしてくるね」
「おれがなんだ」
「起きてたの」
「騒がしくて寝られねぇ」
が手渡した酒瓶を受け取りそのまま横へ座る。それを受けて手早く食事を取り分ける
にお前も食えと言うのがサンジが不在のときのゾロの役目だ。
「それにしても、三人が戻ってきたのは意外だったな。どこかに泊まってくるのかと思った」
「そうしたかったんだけどよぉ、人手不足とかでどこの宿屋もいっぱいでさ」
「
にもおいしいもの食べてもらいたかったしな!」
「そっかぁ。ありがとうチョッパー」
「へへぇやめろよコノヤローっ」
照れるチョッパーにまた感謝の言葉を述べて、ウソップから今日の出来事を楽しそうに聞いて。そうこうしているうちにお土産だったはずの食事はルフィの胃袋に消えていくのに
はほとんど食事に手を付けない。だからいつまでもナミに遠慮するなと叱られるのだ。
「あ、ルフィそんなに口に入れたら喉詰まらせるよ!」
「まずはお前が食えよモヤシ野郎」
「あれ?でもこれゾロのじゃない?」
「おれは酒があればそれでいい」
「ゾロったら優しい〜」
「オメェらは食い過ぎなんだよ」
「ゾロもお酒飲みすぎるなよ!」
「んにゃ?
、いらないならそれもらっていいか?」
「あ、じゃあ半分こする?」
「「やらんでいい!」」
そんな風に盛り上がって、月が船の真上に登る頃にはもうすっかり眠っている。
「そのまま寝かしときゃいい」
「ゾロ」
寝室からタオルケットを持ってた
にゾロは座ったまま声をかける。
「本当は向こうの部屋まで運んであげられたらいいんだけど」
「そんなに尽くすこたねぇ。お前も寝ろ」
「うん。これだけかけたら」
「………」
「おやすみゾロ。楽しい時間をありがとう」
「おう」
は眠るときに必ずおやすみと挨拶をしたがるらしい。そうブルックが言うのを聞いて意識してみれば、なるほど確かに寝ている相手にすら就寝の挨拶をしているし、それ以外の場面でも機会があれば必ず挨拶をする。その生真面目さや育ちの良さからある程度裕福な家庭で育ったのだろうと海賊船での暮らしについて不便がないか本人に問うていたことがある。
『ありがとうブルック。でも僕の家は兄弟も多いし裕福ではないよ。ただこことは少し環境が違うだけで』
『なるほど、
さんはお兄さんだったのですね』
『なんでわかったの?』
『面倒見がよく、失礼ながら甘え下手だと思いまして。ヨホホ』
『あぁなるほど。そう、僕は長男だからさ。ついルフィたちも弟みたいに甘やかしちゃう。僕より立派な、船長さんなのにね』
『
さんも十分立派でいらっしゃいますよ』
『いやぁ。でも、ありがとう』
その後も何か話していたような気がするが、ゾロは眠ってしまったため分からなかった。
今もそうだ。
「おかしい。出航30分前に
が船にいないなんてやっぱり変よ」
「でもこの間もそうだったろぉ?やっぱり島を見たくなったんじゃないか?」
「いつ降りたのか、誰が見てない?」
「うぅん……おれたちが起きたのがお昼ごろで…起きてからは見てない」
またいつの間にか船から降りていた。
「降りたいんだろ」
「え?」
「ゾロさん……」
「降りたいって、この船を?」
「……いいや───この世界から」
悠然とした足取りで船を降りる方向音痴を普段なら誰もが止めるが、前に
を連れてきた功績もありとりあえずはという形で任せることにした。
***
「おい」
「…………」
「聞こえてんだろ」
「……ゾロ」
は靴を脱いで海沿いを歩いていた。別に海が好きだというわけではないが、おそらくここにいるだろうとなんとなく思っていた。
「どうしてここに?」
「迷った」
「迷ったって……ゾロ、船降りてどこ行こうとしてたのさ」
「帰るぞ」
「……いいのかな」
「あ?」
「僕は一味じゃないのに"帰る"って言って」
「なら他に行くとこあんのか」
「ない、けど……」
「なら行くぞ」
「あまり介入すべきじゃないって分かってるのに」
「お前なァ、いつもそうだが何に遠慮してんだ?」
「えっ?そりゃ、いつまでも君たちに居候になるわけには──」
「違うだろ。おれたちじゃねェ」
「……」
「……」
「………言えないよ」
いち読者の悩み
「これ以上親しくならないようにしたいなァ」
「置いてくぞいじけ野郎」
「船はそっちじゃないよ」
「ウッ」
「手繋いで帰る?」
「ア゙?」
「へへっ、ごめん調子乗った」
「………チッ」
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