面白いのでもう少しこのまま

「は?顎が砕けた?」

頷くことも辛いらしく、右手で肯定のサインをしてきたにマルコはため息をつくしかなかった。

「なんでそんなことになったんだよい……」

顎が砕けているのだ。当然説明などできるわけもなく、困ったように眉を下げて目を合わせるだけ。

「味方の支援に入ったとこを狙われてトンファーをもろに食らいやがったんだ」
「そんな事だろうと思ったよい」

背後から会話に加わったエースはの肩に腕を置きマルコに事の詳細を話しだした。それを見たがぎょっとしてエースの口を塞ぐがエースはニヤニヤ笑いながらその手をどかし話し続ける。

「しばらくはサッチの飯が食えないもんなァ。勿体ないからおれが食ってやるよ」

怒った顔でポカポカエースを殴っていたが、振動で傷が痛んだのかしゃがみ込んだ。

「おれがパパッと治してやれれば良かったんだがなぁ」

ポロリとこぼした言葉を拾ったが痛みを堪えながらマルコに治癒力の向上だけでも十分ありがたいと笑いかける。痛々しい姿にマルコはうまく笑い返してやれなかった。


船が陸を離れてからは当然マルコがの経過観察を行うわけだが、不死鳥を身に宿してからというもの人体とはこんなに治りが遅いのかと何度も感じたし、今回は特にそれを感じているらしい。

「まだ話せないのかよい」

不服そうなマルコを宥めるように笑いかけたがその顔が更に苛立たせた。いつもの生意気な軽口はどうした。顎が砕けただけで中身まで変わったか。

「サッチだっていつも大袈裟なくらい料理を褒めるお前がいないんじゃ張り合いがねェって言ってたよい。おれは別に、静かでいいと思うけどねぃ」

視線は手元の包帯に向いている。仕事が詰まっている訳ではないが目を見て話すと混ぜた嘘を見抜かれてしまいそうだったから。

「さて、今日できるのはここまでだよい。たいそうな器具はやっぱり陸の病院に行かないと手に入らねぇんだ。悪化させるような真似はするんじゃねェよい」

マルコの忠告に大げさに敬礼したせいで

「本当に分かってんのかよい」

と凄まれるが今は肩をすくめる以外何もできない。いつもの生意気な返事がないことにマルコは肩透かしを食らった気分だ。

「そろそろ終わったかい?」

ノックと同時にドアを開けたエースは治療が終わったらしいの腕を掴んでなぁ、と声をかけた。

「すぐそこにでかい海王類が出たらしいんだ、見に行こうぜ!」
「おいエース、分かってるだろうがそいつは怪我人なんだあんま動かすなよい」
「おれがいるんだ問題ねぇよ」
「悪化させたら承知しねぇよい」

二人の応酬を見ていたがすかさず間に入りマルコに問題ないとグーサインを送ることで場を収めた。腕を引くエースは少し頬を膨らませていたが、陽の光を受けて鱗を七色に光らせる海王類を二人で見ているうちにまたもとの様子に戻り肩を組んでいた。

「オヤジがあれは放っておこうだとよ。良かったなァ。おれたちがあいつを美味そうに食ってるのを見ないで済んだな」

意地悪く笑うエースには小さく鼻を鳴らした。あの海王類は見た目にそぐわず身が生臭くて食べられたものじゃないと知っているのだが、言ってやろうにも口がきけない。仕方なく顔を近づけニヤついているエースに向けて息を吹きかけてやった。

「この野郎……そういえばお前、飯どうしてんだ?怪我したら腹減らねぇの?」

口が開かなくたって腹は減るだろう。なんとも今更な質問だと思いながら腕の注射痕を見せる。点滴で栄養を取っているのだ、満腹感は得られないが。身振り手振りで伝えてる間もエースは興味深げに腕の注射痕を眺めたり触ったりしている。確かにロギアの身では注射後に残る不自然な腫れや肌の色素の沈下などわからないのだろうが。

「……ま、お前がこんな怪我したのはおれの手下を庇ってのことだしな。快復したら腹いっぱいうまいもん食わせてやるよ」

まるで自分が作るかのような言い方だ。それにしても片時も離れなかったり仕事を代わったりしているのはエースなりに気遣ってるつもりだろうか。自分の意志でやったことだし気にすることはないのに変に律儀な様子が可愛らしく可笑しくてつい頭を撫で回すとやめろと吠えられた。

「お前、おれが年下だからってそんなことしてんなら許さねぇぞ!」
「許されねぇのはどっちだよい」
「げっ」
「お前の手下の不手際でうちの戦力削られたってんならこいつにちょっかい出す前にまずは手前の手下鍛え直せよい」
「いってェ!」

ときには間に入らず傍観することも重要である。ご機嫌斜めなマルコがエースを追っ払おうとしている様子を3歩後ろから眺めていると、ふとサッチが

「いい趣味してるなぁ」

と声をかけてきた。
冗談じゃない。あの二人に勝手に巻き込まれてるだけだよ。そう抗議しても

「白々しい演技はやめろ」

と一蹴されて終わり。

サッチの美味しいご飯は食べられないし、ここぞとばかりに付け込んでくる輩がいるし、麻酔が切れれば傷は痛いしで怪我なんてろくなことがないが



口を挟まず見ていようと決めていた。



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