「なぁサンジ、お前は女のどこが好きなの?可愛さ?包容力?か弱さ?色気?か細さ?強かさ?顔?胸?それともまンぶぇあッ!?」
簡易ハンモックから思い切り蹴り飛ばされた
はその勢いのまま壁に体を打ち付け沈んでいったが、チョッパー以外誰も心配せず、ルフィ以外は自業自得だとサンジの味方をした。
「なぁウソップ、
はなんて言おうとしたんだ?」
「いいんだルフィ。お前はそのままでいろよぉ」
はぐらされた事にもいまいち気付いていないルフィが頭に疑問符を浮かべている間も、
は蹴り落とされた床の上に大の字になってあーだのうーだのと声を発していた。
「どうしたって“女”が好きなのかあ」
「レディだ。その品のない呼び方はよせ」
「はぁ〜!俺もサンジの特別になりてぇ!」
ゾロはため息をついて寝支度を始めた。またいつもの無駄な演説が始まったと。
「ルフィはサンジの唯一の船長。ゾロは犬猿の仲、ウソップやチョッパーもサンジの認めた狙撃手に医者だ」
「おれの肩書なら熨斗つけてくれてやるぜ」
「はいどうぞってもらえるもんじゃないでしょ」
「第一俺は───」
「黙れ」
「怒るなよ〜」
「さっさと寝ろクソやろう」
瞳孔を開いてキレるサンジにウソップは空気を読みルフィ達と共に撤退し、残された
だけがサンジに向けにっこりと笑みを返した。
***
「それで今朝から喧嘩してるのね」
「喧嘩って程でもないさ。アイツがただ俺にキレてるだけ」
「貴方が怒らせたんでしょう?」
「ロビンにゃ敵わんなぁ」
空になったティーカップに紅茶を注ぐ。ドボドボと品のない入れ方をしてもロビンは穏やかな顔のまま「ありがとう」と微笑んだ。
「第一俺は、麦わらの一味じゃないからね」
「ふふ、それを言うからコックさんが怒るんじゃないかしら?」
「ん?あいつは俺が何言っても怒るよ」
ボールを手際よくかき回しながらわざとらしく肩をすくめた。
「でもまっ、喧嘩しててもちゃんとご飯出してくれて、決まった時間になったらちゃんとキッチン貸してくれるんだから良い奴だよな」
「誰にでも良い人という訳ではないと思うけど」
「そう?この船のやつは皆良い奴だよ」
ロビンも含めてね。
そう言いながら出されたのはルリジューズとチーズガレットの皿盛りで、ブルーベリーソースの色濃い紫色が皿を踊る、普段のガサツさからは想像もつかない繊細なデザートだ。それを前にしてもロビンは心から笑えず、いつもの作った笑顔で「美味しそう」と述べる。
の余計な一言がなければもう少し素直にこの芸術を楽しめたのに。
「貴方やはり人を見る目がないわ」
「そんなことないと思うけど」
蛇口を捻り出てきた水をコップにいれそのまま口に運ぶ。しかし見かねたロビンが手を'咲かせ'その水を取り上げた。
「飲水なら冷蔵庫の中よ」
「ほら優しい」
死にゃあしないよ。そう言いながらも言われたとおり冷蔵庫を開け自分の名が書かれた容器を掴む。
「コックさんが言ってたけれど、貴方随分あちこちのホテルからオファーが来てるんですってね」
「あぁー、そうね。安く雇える割には腕がいいとか」
「そんなパティシエさんに作ってもらえるなんてこの船は幸せね」
「こちらこそ、練習に付き合ってくれて助かってるよ」
もう少ししたら飛び込んでくるであろう男たちのために大きな皿に余ったスイーツを乗せていく。ナミやロビンの為に用意したものよりいくらか形が崩れているがそんなの気付きもしないそんな連中のために、量だけは沢山用意した。
「貴方も十分いい人よ」
「ふっ、ありがとさん」
二人の想像どおり、島につくという吉報とともに賑やかな面々が部屋へと押しかけてきた。
***
訪れた島でナミと
はあるチラシを崇めニコニコしている。肩を並べ笑い合う姿にサンジが悔しそうな顔をするが気付かないふりをした。
「私の見間違いでなければぁ、優勝賞金は100万ベリーよね?」
「合ってる合ってる!タダ酒飲んで100万ベリーはもうこれ見逃せないね」
「私は女子の部で優勝するから、
は男子の部お願いねっ」
「本当はゾロのがいいんだろうけど、ワインとあっちゃあ譲れないな!」
トントン拍子で話が進み二人が歓喜の抱擁をしようとした時、割って入り
を蹴飛ばしたサンジがナミに向けて爽やかな笑顔で行った。
「ナミさん!こんなやつよりおれのがよっぽど頼りになるぜ」
「私は別に優勝さえしてくれればどっちでもいいわよ」
「えぇ〜じゃあ二人で出てもいい?最悪準優勝でも二人分の参加費とお釣りが出るし」
「おれがナミさんに優勝を捧げるんだから問題ねぇよ!」
「まぁいいわ。あんた達、出るからには勝ちなさいよ?」
はーい、と素直な返事をした二人はぎこちなく肩を並べてエントリーをしに言ったが、二人の間柄を知るナミとしてはこういう時くらい普通にしなさいとため息をついた。
***
「ほえ〜このワインどこ産?かなり重めなんだけど口に入れた途端熟された果実を味わえて最高!あとこの容器がいいのかな?香りを逃さないし赤ワインを主役にさせる色味だね!お土産に買っていきたい!あとこれも!ボトルデザインがちょっと無機質だから贈答用ではなさそうかもだけど、飲んでみたらうまくてびっくり。香りと酸味が程よくてどの前菜にも合うし、グイグイいけちゃう!なーサンジ!……あり?」
頬を高揚させワインの味を熱弁する
は観客だけでなくワインの生産者やソムリエも沸かせた。優勝賞金だけでは飽き足らず様々な企業からワインやら招待券を持たされ既に両腕はいっぱいになってしまったが、
にはもう一つ運ばなければならないものがあった。
「では、他に何か欲しいものがありますか?」
「はい!頂いたものをしまうためのリュックが欲しいです!」
***
「……んぁ?」
「おはようプリンセス」
「なッ!?離せクソッ!」
「んわぁ暴れんなよー」
ひとしきり抵抗してみせたが酔いの回った体では大した力もでないらしく、降参と行った様子で
の腕に収まった。
「最初から大人しくしてくれればいいのに。二日酔いが悪化するだけだぜ」
「うるせェ。あー気持ち悪ィ。お前どこ走ってんだ」
「人に見られたくないだろ?と思って屋根の上」
「揺れる……」
「ワガママ言うな。安心しろ。ちゃんとお前の船に連れて行くよ」
「おれ"たち"の船だ」
「……はは」
ジョークか皮肉だと思って笑ったがサンジは眉間のシワを深めただけだ。これ以上怒りを煽らぬよう黙って船を目指し駆けていく。その沈黙に耐えられなかったのか、サンジが軽く咳払いをしてから何か言葉を探すようにあーと声を吐いた。
「………お前は、あれだ」
「ん?」
「俺を初めて横抱きした男」
「はぁ〜なんだかな〜〜」
笑って、茶化して、からかって。こういう時間が好きだ。二人きりの時なら
はサンジの唯一になれるから。そこに特別な思いなどないとしても。
「はぁいプリンセス、明日の朝食の事は俺に任せて今日はゆっくりお休み」
「おれの仕事くらい自分でする」
「甘やかしてやりたいのに」
今は酒が回っているから、次の島で降りる。次こそは降りる。使い古した宣言を固め直し今回もまた麦らわ海賊団の船に降り立つ。
「お前もさっさと寝ろよ、
」
「……おー」
0か100かで間はない
片思いの相手に振られてもそばにいたい。なんて言えるほど強かじゃないのよ。俺は。
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