照れ隠しってんだぜ

白ひげの仲間になった当初から可愛がっていたはエースの反抗的な態度にすっかり慣れきって、嫌われているという事実すら受け入れてしまっているのだからきっともうからこの関係性を改善しようという気は起きないのだろう。
ならばエースの方から歩み寄るしかない。
せめて普通の仲間として肩を組んで宴を楽しむような、“普通”の家族になりたいのだが、それはもう無理そうだ。

「エース、今日は釣り当番だったよな?」
「だったら何だよ」
「良かったらこの撒き餌使ってくれないか」
「撒き餌ェ?」
「そう。あ、なるべく人のいないところに釣りざおを垂らしてくれ」

不機嫌です、と言いたげな態度を崩さないエースなど気にも止めずに話を続けるのはきっと、エースという個に対して興味がないからに違いない。
そう結論に至ってからはこの男に自分を認識させようと、反発の態度を深めてみたりあえて姿を隠してみたりした。その結果に得たものは家族からの『お前、のこと嫌いなのか』という真逆の印象のみで、ターゲットであるにはなんにも響かなかったらしい。骨折り損のくたびれ儲けとはまさにこの事だ。

「エース?」
「ん、あァ?何だよ」
「ぼんやりしてどうした?疲れてんのか」
「…………別に」

いつだって献身的な態度を崩さないから、人の話も聞かず過去の失敗を振り返るエースにも体を気遣う言葉を投げ掛ける。風邪なんかひいていないのに、背中がぞわぞわするのは、何故なのか。

「海獣が好む餌を刷り込んであるからきっとでかいのが釣れるぞ」
「海獣?釣れんのか」
「他のやつならそのまま海に引っ張り込まれるだろうが、エースなら大丈夫だろ」

根拠のない自信はどこから沸いてくるのかは知らないが、まぁ実際エースの筋力を持ってすれば海獣に引きずり込まれる事はまず無い。今日の夕食に大量の肉が食えるならばと、エースはその撒き餌を受け取った。

「頼むな、エース」
「…………仕方ねェなァ」

自分だけに向けられる笑顔に目が逸らせなかった。遠くでハルタがを呼ぶまでお互いの顔を見あったままだったエースは、が立ち去ったあと拳から炎を漏らす。
同じ釣り当番だった家族には『さんと喋っただけでエースすごく不機嫌じゃねぇか……』と勘違いされていた。


   ***

「こんなところにいたのか」
「……」

船の甲板では久々の肉大量を祝って宴が開かれている。今日の釣り当番であるエースが海獣を次々と釣り上げたからだ。

「主役が酒の席を離れるのはまずいんじゃないか?」
「あんたに仕立てられた主役だ」
「俺は酒強くないから」
「……」

まるで自分のために手柄を譲ったような口ぶりだが、その実、いまだに率先して家族と関わろうとしないエースを気遣って宴の中心に据えたのだろう。そうやって気付かれないような優しさの正体を掴んでしまってからエースはに対して抱いていた嫌悪感を失ってしまっていた。
入れ替わりで胸に住み着いた親愛の念は空回りばかりで伝わりはしないのだけれど。

「ほら、飲みな」
「もうじゅうぶんのまされた」
「違うよ。これは水だ」
「……」
「サッチも心配してたぞ。飲ませ過ぎたって」

宴の主役がいなくなったのもお構いなしで仲間とともに酒を呑みつまみを食らうあの男がエースを心配していたなど思えないが、の口からでたのなら信じよう。今まで散々疑い訝しんできた結果、は嘘をつくような男ではないと証明されたからだ。

「あとこれもサッチが持っていけって渡してくれてな」
「これ、生じゃないか?」
「あぁ。俺も最初は驚いたが、あの海獣は生食も平気らしくてな。旨かったぞ!」
「食ったのか?」
「自分が食えないもん人に渡さないだろ、普通」
「普通ねぇ……」

どうもこの男の“普通”というやつは海賊には似つかわしくない程の親切さで、だからこそ他人に頼ることを良しとしないエースには気味が悪かった。白ひげに言わせれば性分らしく、確かに誰それ構わず世話を焼いていた。そしてエースはそれに妬いていた。
この時否応なく自身の感情について自覚させられたのだ。

「ほら、ここの筋の色が濃い部分の方がコリコリしてて旨いんだ」
「いらねぇ」
「でもなんか食わねぇと。酒だけじゃ明日二日酔いがしんどいぞ?」
「飯もたらふく食った」
「そうか……なら一切れだけ食べてみないか?」

何故頑なに食わせようとするのか。
そもそもこんなに冷たくあしらわれたら普通苛立って立ち去るだろうが、相も変わらずはエースに甘い。

「エースが釣ってくれた魚がとても美味しいから、ぜひ共有したいんだ」
「……、……!」

耳をふさいで顔を背けてしまいたい。

「ほらエース、あーん」
「いや、ほんと……やめろ!」

立ち上がる火柱。盛り上がる甲板。
赤くなった顔を瞬時に青くして火に焼かれたであろうの腕を掴んだが心配ご無用。咄嗟に覇気を纏って火傷になることを免れていた。

「いやぁ腕を上げたなエース。ノーモーションであれだけの威力とは驚いたよ」
「防いだくせに、嫌味かァ?」
「あれ、心配してくれたのかと思ったけど俺の思い過ごしか」
「……」

図星だから苦い顔をしたのだが、は思い過ごしとは恥ずかしいと言ってカラリと笑うだけだった。

「無理に食わせようとして悪かったな。明日、二日酔いがしんどかったら声かけに来いよ」

そう言ってあぐらをかいて膨れっ面したままのエースの頭をくしゃりと撫でていくのだから、二度目の火柱があがったのも仕方がない。

「参ったな。相当嫌われてる」




戻ってきたのぼやきを聞いて、サッチはままならんなぁとため息をつきながらお酌をしてやった。



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