そうそれ以前ね

女ってのは無駄に話が長くていけねぇ。ドラゴンさんにはきちんと話を通したんだから何も悪いことはしてないはずなのだ。つまりあの人の言い分はただ革命軍を抜けた俺への当て付けでしかない。
要約するとこうだ。
散々お世話になったドラゴンの元を抜けて海賊になるなど許せん。それも赤髪のようなものならまだしもどこの馬の骨とも知らぬ海軍まがいの男など!
だ。海軍まがいの…というところまで割れているなら馬の骨も何もないだろうと思うのだが。それを指摘しようとしたところでこの様だ。仕返しの一つもできず、俺は泣きながら船に帰った。


「えーん!えーん!イワンコフさんに苛められたよォ!」

慰めてくれるであろうはずのクルーたちは揃って口をぽかんと開けて俺を見る。
この変化でもこれだけ戸惑うようなら変装した相手にまんまと騙されるんじゃなかろうか。

「おい……!一体何があった!」
「さっすがドレーク!お前なら気付いてくれると思ったぜぇ!」

こちらを指差すドレークの手を引いて、たわわに育った胸の間に腕を挟むと、なんとも分かりやすく動揺したドレークが訳を話せと唸った。

「人体にこんな無茶を起こせるのは俺の元上司しかいないだろ」
「エンポリオ・イワンコフか……、おれは筋は通せと言ったはずだ」
「勿論!きちんと正規の手続きで革命軍は止めた!これはただの嫌がらせだよ。一週間は役立たずだぜ、俺」

今のままじゃ両手使わなきゃりんごも砕けない。全く厄介なことしやがるぜ。砕いたりんごから弾けた果汁が腕を伝い、いつもの癖で舐めとると遠くのクルーが何か言った。

「眼福だ…」
「あぁ……中身があのさんだと分かっててもいい目の保養だぜ……」
「“あの”は余計だ。…が、普段頑張ってくれてる皆にサービスし・ちゃ・うっ」

身体と一緒に変化してくれなかったぶかぶかのシャツをがばりと捲し上げ愛のお裾分け。目の前にいたクルーは情けなく鼻血を出すものや目をかっ開いて焼き付ける奴など様々だ。同じ男だから分かる。商売女には望めないある種の色気というやつだろう。
俺の後ろでガタンッとデカい音がしたが、振り返ってもこちらに背を向けて立つドレークがいるだけで特に異常はなかった。

「ところでちゃ……さん。下着つけなくていいんですか?」
「パンツなら履いてるぜ」

見るか?と言うお誘いには勘弁してくださいと首を横に振られた。

「おれには島に残して来たウルトラキュートな妹がいるんですけど」
「聞いてねぇよ」
「いやいや、つまり女性なら上の下着も必要でしょ?」
「成程確かに外すのばかり上手くなってたが、本来つけるもんだからな」

プレイボーイと声があがるのを片手で制止てたわわな胸をわし掴んでみる。周囲からの熱烈な視線に嫌な気はしないがこんな下心がフルチン状態な奴等を連れて船を降りたくない。

「あ、ドレーク」
「……何だ」
「一緒にデート行こうよ」
「……」
「なんだよその顔~!島降りて一緒に買い物行くのはいつもお前とだろォ!」
「……」





「───……と言って無理やり街へ降りたものの、下着屋で放った一言が『一番安くて地味なものを3つ』だぜェ!?店員さんも俺もえっ!?て感じだよ!」

シャツをはだけさせた先にあるのは薄~い灰色の柄の無いブラジャー。店員には『なかなか束縛の激しい彼氏さんで』と言われた。そりゃそうだよな。バーで引っ掻けた女がこんな面白味もない下着つけてたら萎えるわ。

『そうなんですよぉ!私、彼一筋なのにぃ!』

俺好みの下着を選んで楽しもうと目論んでいた事への意趣返しに腕を掴み胸を押し付ける。この時のドレークの強張りように俺は全てを察した。ほ~~ん。成程。

こいつ女慣れしてねェな?


   ***

「なぁなぁドレーク」
「なんだ」

夜、いつも通り自室で日誌をつけているドレークの側により声をかける。そういえばいつもは小声でもちゃんと声が届くような距離で話をしてるのに、今日はちょっと遠い。既に笑ってしまいそうなのを堪えて真剣な表情でドレークに言う。

「お前ももう海賊なんだからさ、女の子のおっぱいくらいじゃ動じない男にならなきゃ」
「やかましい」
「娼館に行ったら、それ以上のことも、するんだよォ?」
「…………ッ!?」

こちらに背を向けるドレークの首筋にツツツ、と指を沿わせるだけでそんなに反応しなくても。僅かに恐竜の鱗が覆う首筋を左手で庇いながら、羞恥と困惑を浮かべた目で睨んでくるが、それじゃあかえってからかいたくなるだけなのにな。

「耐性つけなきゃ、いざ好みの女の子を前にしても何もできないじゃないか、船長」
「…………」
「だから、特訓な」

終始何か言いたげなドレークがやっとこさ声に出したのは「とっくん……」と特に意味もない言葉の復唱だった。


   ***

どきっ!?突然現れた女の子、ドレーク船長は対応できる!?
と、特訓というなのちょっかいをだし続けてもう6日目。ビックリするくらいドレークが俺の前に現れない。
最初の二日間はわざと下着姿で船内を彷徨い白目剥かせたり、ズボンを履かずにワイシャツ一枚で船長室を訪ね怒鳴られたりして楽しんで…もとい、特訓をしていたのだ。
もっとも、今では船長室は出入り禁止になり、ドレークは姿を消した。まじか。

「あとは何があるかな…おっぱいにトレー乗せて飯を運ぶ…肩を揉むフリをして胸を押し付ける……逆にマッサージさせていかがわしい声を出すってのもいいな」
「手っ取り早く一緒に風呂入りゃいいじゃないですか」
「ハ!その考えはなかった」

そういや普段も一緒に風呂に入ったことなかったな。かなり親しい間柄だと自負しているが、裸の付き合いというものをしたことがない。今度俺から銭湯に誘ってみよう。

「なーでも四日もドレークの顔みてないんだけど、あいつの隠密力が高いのか俺の偵察力が低いのかどっちだ?」
「そんな事よりさん……」
「そんな事ってお前、俺にとってはそこそこ……てオイ!体が!ハンサムボディに戻ってる!」
「別にそこまでではな…グフォ!!」

女の体もなかなかに良かったが、やはり海を渡るならこの体がいい。厚みと支えのとれる重心がいかに安心できるかを思い知った一週間だったな。

「よし!今日は宴にしようぜ!おら、この金で好きなもん買ってこい!」

元々余計な金は持たない主義だ。島の経済を潤す為にも札束を渡し買い出しに行かせると、その騒ぎ声を聞き付けたらしいドレークを見つけ、思わずダッシュで駆け寄った。

「ドレーク!ドレーク!戻ったぞー!」
「!、良かったな」

おれもおれもと宴の買い出しに行ったため、船は見張り番の数名以外には俺達しかいない静かなものになった。

「良くはねぇよ。結局お前、女の裸、克服できなかったろ。問題は解決できなかった」
「そんな不必要な訓練よりお前と話ができない方がおれには余程問題、だ…っ…………」

自分の発言にぼんッと顔を赤くしたドレークが僅かに俺を見上げ突然ぶん殴ってきた。

「イテェ!ちょっと、ドレーク!?」

大股歩きで逃げていくのを見送りながら「あー可愛いってこういうことかー」とぼやき、その背を追った。



もしかしたらこいつ、普通に俺の裸見てもぶっ倒れるんじゃないか?



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