「それで?何故こうなった」
パシ、パシッ。
右手で繰り返し振るわれる十手が左手を叩き軽快な音をたてる。この静かな状況ではよく響き、相手の答えを催促するように少しずつ音のペースが上がっていく。
「……」
「答えろ」
「あはは~……」
この場合、その相手と言うのは俺だ。
「いやぁ、通報通り、確かに海賊はいたんだけど」
「敵わなかったのか」
「逆だよ。弱かった」
返事を誤ったか。眉間の皺が深くなって勢いよく煙を吐いた同僚が訳を話せと言わんばかりに睨み付ける。ほんと、顔が怖い。
「いっそ海賊旗下ろせってくらい陽気で穏やかな奴等でさ」
「逃げるための演技かもしれねぇぞ」
「だとしても、赤子がいる船を俺は沈められない」
「……それで返り討ちにあってもか」
その目は俺の右肩から指先までをわざとらしく睨むから、きっとこの大怪我のことを言いたいんだろう。別にこれは彼らにやられた訳じゃない。
「いやいや。部下が砲弾を撃っちゃったからさ。受け止めたんだ」
「………」
今度こそスモーカーは絶句した。仕方ないじゃないか。俺はお前と違ってただの人間なんだから砲撃受け止めれば大怪我もする。
「……上にはなんて報告するんだ」
「転びました」
「ふざけんな」
「ふざけてないよ」
旗は下ろして商業船としてやっていくと約束したあいつらのことも、上官(俺)の指示を無視して砲撃した部下のことも報告したくない。今の元帥なら絶対に息の根を止めてしまうだろう。
「それにまともに報告しないのはお前も同じだろう?スモーカー」
言わなきゃ良かったって思ってるんだろうな。苦々しく葉巻を噛んで、海賊たちを逃がした2年以上前のことを掘り返す俺を小突いた。
「それだけの怪我を転んでは通らねぇだろうが」
「それもそうだなぁ」
まぁでもここから本部に戻るまでの間にはある程度治っちゃうんだろうからこのままでいいや。スモーカーには言わんとこ。
「………」
俺の悪巧みに気付く様子もない中将殿は窓の外のそのまたどっか、ここじゃない遠くを見ている。
「あぁあ、煙がひどいや」
わざとらしく窓辺に立って視界を俺で埋めてしまうなんて、我ながらキモチワルイ。
「ねぇスモーカー」
「……」
何度も型どったこいつの名前。返事は返ってこない。もう慣れた。
「俺は海賊になりたいよ」
「馬鹿を言うな」
「海賊になったらさ、スモーカー俺の事追っかけてくれる?」
「……」
「無理だよね」
だって俺、麦わら海賊団じゃないし。
揺れる天秤
「海賊は憎くて、羨ましい」
掻きむしろうとした左手をグローブに掴まれる。この煙の匂いが、また俺をおかしくしてしまうのに。
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